この記事では、「Se tu m’ami」の歌詞、日本語訳、ピアノ伴奏、発音と、演奏時のポイントなどを解説しています。
声楽を習い始めて半年から3年目ぐらいの方に向けて書きました。
管理人は現在イタリアに留学して声楽の勉強を続けています。
日本で声楽を習い始めたころ「Se tu m’ami」を勉強しました。
好きな曲のひとつだったので、解説を書いてみます。
Se tu m’amiの歌詞
Se tu m’ami
se tu sospiri sol per me, gentil pastor,
ho dolor dei tuoi martiri,
ho diletto del tuo amor.
Ma se pensi che soletto io ti debba riamar,
pastorello, sei soggetto facilmente a t’ingannar.
Bella rosa porporina oggi Silvia sceglierà,
con la scusa della spina doman poi la sprezzerà.
Ma degli uomini il consiglio
io per me non seguirò.
Non perchè mi piace il giglio
gli altri fiori sprezzerò
Se tu m’amiの日本語訳
もしあなたが私を愛し
もしあなたが私だけのために溜め息をつくのなら、かわいい羊飼いよ、
私はあなたの苦悩に痛みを
あなたの愛に喜びを感じる
でももし私があなただけを愛すべきだと思うなら
羊飼いさん、あなたは簡単に裏切られるわ
真紅の美しい薔薇を今日シルヴィアは選ぶでしょう
でも明日には棘を理由にさげすむでしょう
男たちのアドバイスなんて
私は自分のために無視するわ
百合を気に入ったからといって
ほかの花をさげすむ必要があるかしら?
基礎的なイタリア語単語を知りたいなら『これなら覚えられる イタリア語単語帳』がおすすめ!
日本語訳に際して意訳した箇所
自然な日本語の流れを尊重して直訳していない箇所があります……。
gentil pastor
直訳すると「親切な羊飼い」となりそうですが、前後の意味や、全体的な詩の雰囲気からは「愛らしい、繊細な」などがあいそうです。
ということで、ちょっと上から目線のお姉様が歌っているイメージで「かわいい羊飼いさん」という選択にしてみました。
non seguirò
non seguiròは直訳すると「従わないでしょう」となります。
ここでは「per me(私のために)」に続く自然な言葉として「無視する」と訳しました。
単語の解説
現代のイタリア語では使わない言葉や意味の異なる単語、日常語ではなく詩の言い回しなどを解説します。
martiri
martire(殉教者)の形で見かけることの多い語。
詩においてはmartirioの形で「苦悩、苦痛」の意味をもつことも。
scusa
日常生活では、軽い「ごめん」の意味でしょっちゅう使うscusa。
この用法は、文法的にはscusare(許す)の命令形です。
この詩の中のscusaは名詞のほう。
「許し、謝罪」といった意味のほかに「言い訳、口実」という意味も持ちます。
sprezzare
sprezzerà(未来形)で出てくるsprezzare。
現代イタリア語のdisprezzare(軽蔑する)に相当します。
イタリア語文法に興味がある? 勉強を始めてみたいなら『辞書なしで学べる 入門 イタリア語の最初歩』がおすすめ!
Se tu m’amiの発音目安
イタリア語の発音をすべてカタカナで表すことは不可能ですが、目安として書いてみます。
日本語と異なるのは母音のU。日本語の「ウ」より深いところで発音します。
それからこの詩には複数回出てくる子音の「gli」。リとギの中間のような音になります。上の歯と舌の間から空気がもれる音です。
セ トゥ マミ
セ トゥ ソスピリ ソル ペル メ、ジェンティル パストール
オ ドロール デイ トゥォイ マルティーリ
オ ディレット デル トゥオ アモール
マ セ ペンスィ ケ ソレット
イオ ティ デッバ リアマール
パストレッロ、セイ ソジェット
ファチルメンテ ア ティンガンナール
ベッラ ローザ ポルポリーナ
オッジ スィルヴィア シェッリ(ギ)エラー
コン ラ スクーザ デッラ スピーナ
ドマン ポイ ラ スプレッツェラー
マ デッリ(ギ) ウオーミニ イル コンスィッリョ
(実際歌うと「マーデーリュオミニーィルコンスィーリオ」みたいな)
イオ ペル メ ノン セグイロー
ノン ペルケ ミ ピアーチェ イル ジッリョ(ジッギォ)
リ(ギ) アルトゥリ フィオーリ スプレッツェロー
歌うためにイタリア語発音を磨きたいなら『伝統のイタリア語発音―オペラ・歌曲を歌うために』がおすすめ。
CD付きなので耳からもしっかり学べます。
日常会話やイタリアンポップスを歌うイタリア語ではなく、歴史あるクラシックを歌うためのイタリア語発音が学べる本。
日本語で読める本なのに、イタリアの音楽院の先生から勧められてびっくり。著者のチェラントラさんと先生が知り合いだったのにゃ。
Se tu m’amiをYouTubeで聴く
中声用(へ短調)で歌っています。歌詞・対訳が表示されます。
全音楽譜出版社のイタリア古典歌曲集(1)[新版] の全ての曲についてお手本が欲しい方は、2枚組CD「イタリア歌曲集」が便利。
イタリア古典歌曲集(1)に載っている曲を網羅する38曲入りなので、歌手の声に好き嫌いはあれど勉強の助けになります。
Se tu m’amiのピアノ伴奏
上記録音のピアノ伴奏です。
Se tu m’amiの楽譜
無料でダウンロードできる楽譜
19世紀にリコルディ社から出版された、パリゾッティ編集の「古典アリア集」をインターネットから無料でダウンロードすることができます。
Se tu m’amiはVolume1に収録されています。
Volume1をひらいて目次を見ると、fascicolo(ファシーコロ=分冊)が3つに分かれています。Se tu m’amiはfascicolo terzo(3番目)に入っています。
>>パブリックドメインの楽譜をダウンロードできるWEBサイト「IMSLP」
楽譜を購入する場合
ほとんどの声楽学習者が使っているのが、全音楽譜出版社のイタリア古典歌曲集(1) [新版]です。声に合わせて、低声用・中声用・高声用が出ています。先生について勉強している場合は、どれを買えばよいかアドバイスしてもらいましょう。
模範歌唱・ピアノ伴奏付きの楽譜
楽譜に2枚組CDがついているのが、2CD付 独習と受験のためのイタリア歌曲集(1) (原詩朗読・範唱CD+伴奏CD) 歌唱監修=畑中 良輔。
- イタリア人による歌詞の朗読
- 声楽家による模範歌唱
- プロのピアノ伴奏
おさめられているのは19曲。全音楽譜出版社のイタリア歌曲集全曲を網羅しているわけではありません。
収録曲は下の +ボタン を押してご覧ください。
Lasciatemi morire! / モンテヴェルディ
Intorno all’idol mio / チェスティ
Le violette / スカルラッティ
O cessate di piagarmi / スカルラッティ
Se tu della mia morte / スカルラッティ
Tu lo sai / トレッリ
Deh, piu a me non V’ascondete / ボノンチーニ
Caro laccio,dolce nodo / ガスパリーニ
Per la gloria d’adorarvi / ボノンチーニ
Se tu m’ami / ペルゴレージ
Selve amiche / カルダーラ
Piacer d’amor / マルティーニ
Nel cor piu non mi sento / パイジェッロ
Il fervido desiderio / べッリーニ
Ma rendi pur contento / べッリーニ
Ancora! / トスティ
Segreto / トスティ
Quando ti rivedro / ドナウディ
「Se tu m’ami」は11曲目に収められています。
Se tu m’amiの作曲家
日本で声楽学習者が必ずといっていいほど勉強する全音楽譜出版社の「Arie antiche italiane」(「イタリア古典アリア集」の意味ですが、よく「イタリア古典歌曲集」と呼ばれている)は、ロマン派後期に活躍した作曲家で音楽学者のアレッサンドロ・パリゾッティが出版した「古典アリア集」が下敷きになっています。
パリゾッティは「古典アリア集」において、Se tu m’amiの作曲家をペルゴレージ(Giovanni Battista Pergolesi 、1710-1736)としていますが、実際はパリゾッティ自身の作曲という説が有力です。
バロック時代のアリアにしては歌詞の繰り返しが少ないのも、パリゾッティ作だからかも知れません。
パリゾッティ
アレッサンドロ・パリゾッティ(Alessandro Parisotti、1853ー1913年)はローマのサン・ピエトロ大聖堂の聖歌隊「カッペッラ・ジューリア」の音楽監督サルヴァトーレ・メルッツィに作曲を学びました。
雑談コーナーだよ。
メルッツィは1900年前後の教会音楽界において、チェチリアニスト側だったんだよね~
チェチリアニストっていうのは、パレストリーナの多声音楽のようなスタイルが教会音楽にはふさわしいって考えていた人たち。
パリゾッティがメルッツィの教えを受けていたなんて、ちょっと意外!
パリゾッティは、バロック音楽の幕開け時代の作曲家――カッチーニやモンテヴェルディからチマローザやパイジエッロのような古典派の作曲家まで、結構まんべんなく17、18世紀の音楽を発掘し「古典アリア集」として編集している。
歌とピアノ用にアレンジするにあたり、ロマン派的な解釈で和声をつけていたり、ディナーミクを書きこんでいたりする。
現代の古楽演奏スタイルの観点からみればおかしなものだが、全音版の「イタリア古典アリア集」にも踏襲されている・・・
それでもバロック時代の名作を掘り起こし、世に発表したパリゾッティや同時代の音楽学者の功績は、たたえられてよいものだと思う。
そもそも知られなければ興味も持たれず、演奏も研究もされないのだから……
ペルゴレージ
ペルゴレージはバロック時代後期の作曲家です。
代表作はコミカルなオペラ『奥様女中』と宗教曲『スターバト・マーテル』。
26歳という若さで亡くなりましたが、彼の感覚は新しく、次の時代――古典派の音楽を彷彿(ほうふつ)とさせます。
Se tu m’amiの歌い方、解説
歌うときのポイントについて書きます。
テンポの緩急をつける
バロック音楽では、速いところは速く、遅いところはとてもゆっくりと、緩急をつけた演奏をおこないます。
でもそれは、Aパートはゆっくり、Bパートは速くのようにある程度大きなかたまりの話です。例:ヘンデルのアリア「Cara sposa」もちろん逆パターンでAがpresto、Bがlentoもあります。
しかしSe tu m’amiを歌うときは、ほとんど一文ごとに緩急をつける歌い方が似合います……
1700年代前半の様式らしくありませんが、まあ本当の作曲家は19世紀後半に活躍したパリゾッティだから・・・
筆者がSe tu m’amiを習ったころの声楽ノートには、
速い部分のあとには遅い部分が、遅くなったら次は速く
と書いてありました。
緩急をつけて歌ったSe tu m’amiの参考音源
イタリアの名メゾソプラノ、チェチーリア・バルトリが歌うSe tu m’amiには、情緒ゆたかなアゴーギク(テンポの緩急)がつけられています。
楽譜通り均一なリズムで歌えるようになったあとで、表現の参考にすると楽しいと思います。
また、6度の跳躍でFaを歌わなければならない「Ma se pensi」の箇所は、ゆっくり歌うことで呼吸の準備をすることができます。
しっかりと、おなか~腰回りで支えてFaを出しましょう。
Se tu m’amiが収録されたCD
バルトリのアルバム「古典アリア集」は、Caro mio benやNel cor più non mi sentoなど声楽初歩のころに勉強する曲がたくさん収められているのでおすすめです。
イタリアの超人気オペラ歌手の録音で聴けるので、単に観賞用としても美しいし、表現など勉強になります。
『イタリア古典歌曲集』におさめられているバロック時代の数々のアリアが、決して練習曲ではなく珠玉の芸術作品集だということがよく分かると思います。
音程がとりにくい箇所「facilmente a t’ingannar」の歌い方
(楽譜はパブリックドメインの楽譜をダウンロードできるWEBサイト「IMSLP」から19世紀に出版されたものをお借りしています)
7度上がってオクターブを駆け下りる音型で、音程をとりにくく感じるかもしれません。
コツは上がるときのエネルギーを保ったまま下りてくることです。
中音域のSolから7度上のFaへ上がるときは、自然とおなかの支えを使えます。
でもオクターブ下のFaに下りてくるときに、この支えがなくなってしまうと音程が下がりすぎたり、下のFaが響きのない声になってしまったりします。
フレーズの最後までしっかりと、息の支えのある声で歌いましょう。
B部分は少し雰囲気を変えて
「facilmente a t’ingannar」のフレーズをレガートに歌ったら、続くB部分の「Bella rosa porporina oggi Silvia sceglierà」は少しスタッカートぎみに歌うと変化がつきます。
コツはBellaやOggiなどの二重子音をしっかり発音すること。
スタッカートぎみに歌うといっても、Rosa(ローザ)を「ロ、ザ」と切って発音したらなんのことだか分かりません。
どこで単語が切れているのか、イタリア語の歌詞を理解して歌いましょう。
Se tu m’amiの表現
歌詞の主人公は、若さと美しさを謳歌している、ちょっぴり高飛車な少女です。
自信満々に歌いましょう(笑)
過去の声楽ノートには、
ドニゼッティ『愛の妙薬』のヒロインのようなイメージを持って歌った。
と書いてありました。
『イタリア古典アリア集』ほかのアリアの解説記事ご案内
声楽初歩の段階で勉強する『イタリア古典歌曲集』、ほかのアリアについても解説記事を書いていますので、役立てていただけたら嬉しいです。
- オンブラ・マイ・フOmbra mai fù(ヘンデル《セルセ》より)歌詞と解説
- Lascia ch’io pianga(私を泣かせてください):歌詞、対訳、ピアノ伴奏他
- Nel cor più non mi sento:歌詞/対訳/楽譜/発音/ピアノ伴奏/解説
- アマリッリ(Amarilli, mia bella)歌詞/対訳/ピアノ伴奏/発音/解説他
くれぐれものどは大切にね。
最後に管理人が気に入ってイタリア留学にも持ってきたのど飴を紹介するよ。
歌ったあとの喉の疲れがとれるし、発声前になめておくと声が出やすい気がする……さすが国立音大声楽科との共同開発。
失敗しない声楽の先生の選び方について書いています。SNSで出会った最初の先生とは友人のような関係で楽しかったけれど、いまから思えば先生選びの失敗例でした。日本では音大に通わず個人で勉強してきた管理人だから書ける、自分に合った声楽の先生を探すための記事です。
コメントを残す