(画像はカヴァッリのオペラ『Ercole Amante(恋するヘラクレス)』の楽譜です)
イタリア音楽院で通奏低音を勉強し始めて3年目の管理人が、チェンバロで声楽の伴奏をするときに、うまくサポートできるよう気を付けていることについて書きます。
かなり初歩の内容になりますが、初心者のとき気を付けていたことというのは、中級にたどり着くころには考えなくてもできる当然の事柄となってしまうので、まだ気を付けている今のうちに記事にしました。
通奏低音奏者は数字付き低音の楽譜を見て、その場でリアリゼーションしながら伴奏します。
実際には、数字は書かれていないことがほとんどなので、歌のメロディーとバッソを同時に見ながら、和声を見極めていくことになります。
通奏低音の仕組みについては、「通奏低音講座基礎編~数字の読み方と弾き方~」に書いていますので、詳しくはこちらをご覧ください!
通奏低音の伴奏が歌う人をサポートする
歌いだしの音を弾いてあげる
楽器の伴奏をするときにはしないことなので忘れがちですが、特に曲の途中から始める時は、フレーズの最初の音や、ワンフレーズを弾いてあげます。
管理人のような未熟な通奏低音奏者が伴奏する声楽の人は、当然相手もまだプロではありません。
例えば声楽のレッスンの伴奏に入ったとき先生が、
「36小節目からもう一度歌って」
などと指示を出します。
すかさず、フレーズの最初の音を弾いてあげるとよいと思います。
歌の人にいちいち「ファ#ちょうだい」などと言わせないようにします。
単音で弾くだけでなく、和音をアルペジオしてトップノートを歌の最初の音符にしてあげたり、最初のフレーズを1,2小節弾いたり、場合によって臨機応変に使い分けると、うまくサポートできると思います。
譜読み段階は通奏低音の伴奏だけでなく…
歌手の身体にまだ音程がしっかり入っていない場合、右手で歌の旋律を弾きながら、入れられるところで和音を押さえて行くようにしています。
音程をしっかり覚えていない人の伴奏をするのに、歌の3度下の旋律を弾いてハモったりすると、歌手はたちまち歌えなくなってしまいます。
初見の曲に和声を付けて行かなければならない通底奏者にとっても、一度歌のメロディーを弾くことで曲を確認できるというメリットもあります。
1,2回、歌の旋律を弾いて音程を確認してもらってから、かっこいい伴奏を考えることにシフトするとよいと思います。
伴奏者がメリスマをサポートするとき
メリスマをサポートするときは、拍の頭だけ弾いてあげると分かりやすい――例をあげて説明すると、
こんなメリスマのフレーズがあったとして、歌の人が譜読みの段階では、右手でDO-RE-MI-FA-MIと弾いてあげるとサポートできるという意味です。
もちろんサポート無しでも最初から正しい音程でメリスマを歌える方の伴奏をするときは、こんなことをする必要はないので、並行5度や並行8度に気をつけながら右手で和声を弾いていきます。
自分が伴奏する歌手の歌唱レベルや、練習度合いを鑑(かんが)みて、臨機応変に対応していくことが大事かと思います。
通奏低音を弾く伴奏者の右手の「打ち直し」
3拍目に「打ち直す」必要があるとき
これは声楽の伴奏に限ったことではありませんし、曲のはやさによって変わります。
4拍子の譜例
例えばこのような曲があったとして、
もしこの曲がAdagioだったら、2小節目と3小節目は”vuoto(ヴオート:空っぽ。音が少なすぎる)”に聴こえるでしょうから、それぞれ3拍目で右手の和音を弾きなおしたほうがよいでしょう。
逆にPrestoだった場合は、2分の2拍子のような拍感を感じて弾くことになるでしょうから、打ち直す必要はありません。
右手もバスのタイミングで弾くことになると思います。
4分の3拍子の譜例
4分の3拍子でも同様です。
もしこの曲がかなりゆっくり奏されるならば、1小節目の3拍目で右手を打ち直すか、もっと優雅に弾くなら、1拍ずつ分散和音にするでしょう。
レチタティーヴォで弾くべき伴奏
レチタティーヴォの伴奏は難易度があがりますし、「レチタティーヴォの伴奏」だけで1本記事が書けるようなテーマなので、ここでは右手の打ち直しに絞ってお話しします。
よくあるパターンのレチタティーヴォを書いてみました(歌詞はジョークです!)。
チェンバロの音色は減衰がはやいので、歌手が詩を表現するためにゆっくり歌う場合には、小節の途中で弾きなおす必要があります。
どんなアルペジオにするのか、2音弾くのか、4音弾くのかなどセンスが問われるところで、歌手の呼吸にあわせてレチタティーヴォを盛り上げる通奏低音が弾けると本当にかっこいいと思います。
素晴らしい通奏低音奏者の弾くレチタティーヴォは、浄瑠璃の三味線のように雄弁ですよね。
あんなふうに鍵盤で感情表現できるようになりたいものです。
前奏、間奏、後奏で伴奏者が弾くべき右手
前奏や間奏で弾く右手のフレーズは、次に歌が入りやすいものを弾く
楽譜にはバスの旋律しか書いていないので、プローヴァで合わせるまで、伴奏者がどんなリアリゼーションをするのか、歌手は具体的には知りません。
バスの旋律とシンプルな和声だけをイメージして練習しています。
リトルネッロ(器楽パート)のあとで転調して新しいメロディーが始まるような曲では、取りにくい音を邪魔するようなフレーズは弾かずに、できる限り歌の導入になるような旋律を弾くことを心がけたいです。
前奏のない曲で伴奏者が弾くこと
1600年代前半――初期バロックの曲には、前奏のないものもたくさんあります。
リュートやテオルボがアルペジオを弾いて曲がはじまるようなイメージのものです。
チェンバロではあまりイメージがあわないな・・・とはいえ、チェンバロで伴奏することも往々にしてあります。
その場合、アルペジオのはやさや音数は曲の雰囲気にあわせましょう。
また、アルペジオの最後の音は、歌手が最初の音を取るのを助けるような音符で終わるように心がけましょう、というか、心がけてほしいです!
(管理人は歌う立場のことも多いので・・・本番でいきなり今までと違うアルペジオのパターンを弾かれると、エェ!?ってなります)
また、オリジナルの簡単な前奏をつけるのなら、必ず曲のはやさをイメージしてから弾くべきです。
もちろん、拍子もあわせて欲しいです・・・
2拍子の曲に3拍子の前奏なんて弾かれると、そこから曲の”ノリ”を思い起こすのに一瞬止まりますから・・・。
通奏低音で伴奏、おわりに
書いているうちに、歌手の立場から「通奏低音奏者に求めること」になってしまいました!
歌もチェンバロも両方勉強していることを生かして、歌う時には和声の理解を表現に生かし、伴奏をするときには歌手の気持ちが分かるチェンバロ奏者になりたいです。
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