「Nel cor più non mi sento(うつろの心)」の歌詞や対訳(日本語訳と逐語訳)、曲や作曲家に関する解説、歌うときのポイントや発音について解説しています。
声楽の個人練習用にピアノ伴奏の動画も紹介しています。
そのほかの「イタリア古典歌曲集」の記事はこちら
- Nel cor più non mi sentoの歌詞
- Nel cor più non mi sentoの対訳
- Nel cor più non mi sentoの発音の目安
- Nel cor più non mi sentoを試聴
- Nel cor più non mi sentoの楽譜
- Nel cor più non mi sentoのピアノ伴奏
- Nel cor più non mi sentoの楽曲解説
- Nel cor più non mi sentoの作曲家パイジエッロについて
- Nel cor più non mi sentoを歌うときのポイント
- Nel cor più non mi sentoの歌い方に関するあとがき
Nel cor più non mi sentoの歌詞
Nel cor più non mi sento
brillar la gioventù;
cagion del mio tormento,
amor, sei colpa tu.
Mi pizzichi, mi stuzzichi,
mi pungichi, mi mastichi,
che cosa è qesto ahimè?
pietà, pietà, pietà!
amore è un certo che,
che disperar mi fa!
Nel cor più non mi sentoの対訳
日本語訳
もはや私は心の中には感じない
青春の輝きを
私の苦しみの原因は
愛よ、お前の罪なのだ。
お前は私をつねってからかい、
ちくりと刺して噛みつく
ああ これは何なのだ?
もうやめておくれ!
恋とは間違いなく
私を絶望させるものだ!
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逐語訳
単語ごとの日本語訳を載せますので、一語一語の意味をなるべく心に留めて歌いましょう!
Nel cor più non mi sento
(心の中に) (もはやない) (私は感じる)
brillar la gioventù;
(輝く) (青春)
cagion del mio tormento,
(理由) (の) (私の苦しみ)
amor, sei colpa tu,
(愛) (be動詞二人称形) (罪) (きみ)
Mi pizzichi, mi stuzzichi,
(君は私をつねる) (君は私をからかう)
mi pungichi, mi mastichi,
(君は私をちくりと刺す) (君は私を噛む)
che cosa è qesto ahimè?
(~は何もの) (これ) (感嘆詞)
pietà, pietà, pietà!
(慈悲、なぐさめ、あわれみ)
amore è un certo che,
(愛) (は) (確実) (関係代名詞)
che disperar mi fa!
(絶望する) (私を) (~させる)
歌詞と対訳のポイント
- colpaは現代のイタリア語では「過ち」の意味で、「colpa mia(私のせい)」「colpa tua(君のせい)」の形でよく使います。
- ahimèやohimèは現代では聞かない感嘆詞です。 オペラの登場人物が使う言葉(笑)
- cheは英語の「what」のように疑問詞としても関係代名詞としても使います。
- certoは「ある〇〇」の意味もありますが、「確かな、確実な」という形容詞で使うことが多いです。 英語の会話文で出てくる「Of course(もちろん)」のように「Certo!」と一語で答える場面もよく見かけます。
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Nel cor più non mi sentoの発音の目安
イタリア語の発音をカタカナで正しく正確に表すことはできませんが、目安として載せておきます。 カタカナと異なる発音は、
- 母音のUが日本語のウとかなり異なります
- 子音のあとに母音を表すアルファベット(a,e,i,o,u)が続かないとき 例えば「cor」は「コール」ではなく、Rは舌を巻くだけです。 Rのあとにuは入らないので日本語の「ル」とは異なります。
ネル コール ピウ ノン ミ セント
ブリッラール ラ ジョヴェントゥ
カジョン デル ミーオ トルメント
アモール セイ コルパ トゥ
ミ ピッツィキ ミ ストゥッツィキ
ミ プンジキ ミ マスティキ
ケ コーザェ クエースト アイメ
ピエタ ピエタ ピエタ
アモーレ(エ)ウン チェルト ケ
ケ ディスペラール ミ ファ
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Nel cor più non mi sentoを試聴
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Nel cor più non mi sentoの楽譜
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「Vocal Score」タブをクリックして、ダウンロードしてください。
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Nel cor più non mi sentoのピアノ伴奏
中声用の楽譜(ヘ長調)で弾いている伴奏です。
声楽の練習用に使って下さい。
Nel cor più non mi sentoの楽曲解説
「Nel cor più non mi sento」は、1788年にナポリのフィオレンティーニ劇場で初演されたオペラ・ブッファ《L’amor contrastato(身分違いの恋)》の中のアリエッタです。
このオペラは現在では再演時のタイトルを取って《La molinara(水車小屋の娘)》 と呼ばれています。
アリエッタとは、アリアと同じようにオペラの中で歌われるものですが、アリアより小規模なものを差します。
なおオペラ・ブッファというのは、市井の人々の物語をコメディタッチに描いたものです。 モーツァルトの《コジ・ファン・トゥッテ》や、ロッシーニの《セビリアの理髪師》などがオペラ・ブッファに含まれています。 貴族の世界や歴史上の人物を描いたオペラ・セリアと比べると、日常的な言葉が使われています。
だからNel cor più non mi sentoの歌詞も結構分かりやすいイタリア語で書かれていますね。
Nel cor più non mi sentoの作曲家パイジエッロについて
ジョヴァンニ・パイジエッロ(Giovanni Paisiello、1740ー1816)は、古典派初期に活躍したイタリアの作曲家。
年齢的にはハイドンより8歳若い。 ナポリの音楽院出身で、フランチェスコ・ドゥランテに学んだ。
ドゥランテの弟子にはパイジエッロのほかにも、ヨンメッリ、ペルゴレージ、ピッチンニ、ヴィンチと錚々たる顔ぶれが並ぶ。
ドゥランテ自身はナポリ学派の大家、アレッサンドロ・スカルラッティから作曲を教わっているので、ナポリ楽派の血脈はバロック時代から古典派時代へと脈々と受け継がれていったわけだ。
ロッシーニが現れるまで《セビリアの理髪師》といえばパイジエッロの作品だった。 バロック時代からロマン派初期までは、同じ原作や台本に作曲するのは一般的なことだった。
パイジエッロは1700年代後半にもっとも成功したオペラ作曲家の一人に数えられ、モーツァルトにも影響を与えた。 オペラやカンタータのような世俗曲だけでなく、ミサ曲やオラトリオなど宗教音楽も残している。
Nel cor più non mi sentoを歌うときのポイント
実際の譜面を見ながら解説していきます。 楽譜はヘ長調(中声用)のものを使います。
恋の苦しみを歌ったアリエッタ
オペラ・ブッファの中の曲らしく、明るい曲調ですが、和訳を見ていただくと分かるように、テーマは「恋の苦悩」です。 ですので、軽やかな中にも詩を表現できると良いと思います。
Nel cor più non mi sentoは弱起ではじまる曲
「Nel cor più non mi sento」の中の多くのフレーズが弱起ではじまります。 でも言葉のアクセントは、強拍に来るように作曲されています。 以下の楽譜を見ていただくと分かりやすいと思います。
- 赤丸を付けたのが弱起になっているフレーズの最初の音
- 青丸が強拍に来る音
前置詞nelよりcorのほうが大事な単語なのは明白だし、「mi sento(私は感じる)」のアクセントは「e」に落ちるし、という具合に、旋律の強拍に言葉のアクセントが来るように作曲されています。
ですから弱起に惑わされず、拍の頭に自然なアクセントが来るように歌いましょう。
イタリア語発音のコツ=子音は短く、母音を長く
特にイタリア語の歌を歌うとき、母音を気持ち長めにしてつないでいくことで、レガート感を出すことがとても大切です。 最初のフレーズ「Nel cor più non mi sento」を例にとって説明すると、
- Nel:Neを長めに歌い、小さくLを添える。八分音符を16分音符に分割して「ネ・ル」と言ってしまわないように注意。
- cor:Coを長めに歌い、巻き舌のRを添える。
- più:uの上に乗っているのはアクセント記号なので、この単語はiではなくuにアクセントが落ちる。よってpiではなくuで延ばすイメージ。 pの子音を短くはっきりと発音する。
- non:noを長めに歌い、nは小さく。nを歌う時に息を止めたり、nがウになったりしないように。
- miは簡単ですね!
- sento:seでのばし、次の拍の寸前にnを添えるのはnonの歌い方と同じ。
という具合になります。 しかし二重子音は、はっきりと長めに歌うこと。 2番目のフレーズ「brillar la gioventù」で早速Lの二重子音が出てきますね。
日本語の促音(つまる音「っ」のこと)のように息を止めるのではなく、舌をLの位置にしたまま息を流すイメージです。
「brillar la gioventù」を歌う時のテクニック
声楽を習い始めた頃のノートを読み返すと、「brillar la gioventù」と「amore è un certo che」が歌いにくかったそうです。 なので歌い方の解説を書いてみます。
- 「la」の装飾は焦点をつかんで動かさない
- 「gioven~」の上昇フレーズ:上あごをあげてゆく。エの母音が平たくならないように。
- 7度下がる「tù」、横隔膜の支えをしっかり保ちピッチが不安定にならないように
「Mi pizzichi」~のBの部分
「Mi pizzichi」から始まるBの部分は、イタリア語の発音が特徴的でおもしろいですね。 子音をはっきりと発音することで、より”痛みを感じている雰囲気”を表現できます。
唇の先に子音を乗せるイメージにすると歌いやすいです。
また、曲頭のレガートなフレーズとのコントラストを付けられますので、「Mi pizzichi, mi stuzzichi」をややスタッカート気味に歌うと感じが出せます。
B部分はイ母音が続きます。 口を横にひらくと響きがなくなるので、口の中は縦の空間を維持するイメージで。 「che cosa è qesto ahimè?」ではまたレガートに歌って、コントラストの違いを際立たせましょう。
このフレーズは問いかけであること、ahimèが感嘆詞であることを忘れないように!
「pietà」を3回繰り返す箇所
「pietà」は神様やマリア様を連想させる言葉です。 ただしオペラなので、前半でamoreに語り掛けていることからも、ここでは愛の神に対して、 「どうかお慈悲を! 見逃して!」 と言っているのでしょう。
どんな表現をしたら、オペラの中の1曲らしくなるか考えて歌うと楽しいですよ!
「amore è un certo che」を歌う時のテクニック
声楽を習い始めたばかりの頃、歌いにくいと思っていた箇所の2つめがこれ、「amore è un certo che」の部分です。
- まず「amore è un certo che」のフレーズの前でしっかりと息を吸う。フレーズ後半をたっぷりとした息で歌えるように。
- Cheを縦にあけて歌う。上あごを高くしながら咽頭があがらないポジション。 エ母音の高音はイタリア語のU母音に近い唇の形で歌うと、まろやかな音色になる。 cheを歌いながら口の形を変えると母音の形が変わってしまうことがあるので注意。
- 横隔膜の支えをしっかりとして息を送る。
ちなみに上の楽譜ではフレーズ字体にクレッシェンドが書いてありますが、作曲された年代を考慮すると、パイジエッロ自身が書き込んだクレッシェンドではない可能性も大きいです。
でもこの曲を勉強するのは声楽を習い始めたばかりの方かも・・・なので、指導者の解釈に従って歌って下さいね~ 最後のフレーズは「disperar (絶望させる)」の歌詞を表現するように歌いましょう!
Nel cor più non mi sentoの歌い方に関するあとがき
8年前のノートに、練習が必要な点として「brillar la gioventù」と「amore è un certo che」のフレーズを挙げていた理由が今は分かります。
私の声は(古楽ではなく)”メインストリームの声楽用語”で言えばメゾなのですが、当時はパッサッジョであるミ♭を越えるテクニックが分からなかったんですね・・・。
メゾやバリトンの声の人は、イタリア古典歌曲集中声用を勉強していると時々こうした歌いにくい音が1曲の中に2~3音出てくると思います。
下あごや舌根など力を入れるべきでないところの緊張を解いてしっかり息を送ると、いとも簡単にパッサーレ(通り過ぎる)ことができます。 書くと単純なことなんだけど、体が覚えていつでも出来るようにするまでは、ちょっと時間がかかるんですよね・・・。
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喉を大切に、楽しく練習しよう
くれぐれものどは大切にね。
最後に管理人が気に入ってイタリア留学にも持ってきたのど飴を紹介するよ。
歌ったあとの喉の疲れがとれるし、発声前になめておくと声が出やすい気がする……さすが国立音大声楽科との共同開発。
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本当に有り難うございました
どういたしまして(^^)/