卒論テーマの決め方 ~イタリア国立音楽院編~

卒論のテーマの決め方、タイトル画像 音楽院の授業
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早いもので卒論を書く時期になりました!

日本の音大では、学部卒業時には卒業演奏会のみで論文は課さない大学が多いようです。
イタリアの音楽院では一般的に、卒業演奏会と論文提出の両方が求められます。
卒業演奏会のプログラムは卒論の内容に関係していなければなりません

日本の音楽大学院の修士課程卒業時の仕組みと似た状況だと思います。

卒論テーマを決めるまでにかなり悩みました。
ネットで検索しても音大生の卒論の話は少なく、参考になるサイトもあまりありませんでした。
ですので今回は「卒論テーマの決め方」と題して、音楽分野で卒論を書かなければならない誰かの役に立つような記事を書きたいと思っています!

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卒論テーマ ~決め方の手順~

卒業論文のテーマを決めるにあたって疑問だったのが、卒業演奏会に歌いたいレパートリーを優先するのか、研究したいテーマを優先するのか、ということです。

先輩や先生方に聞いたところ、答えは明確でした。

卒業演奏会のプログラムを想定して卒論テーマを選ぶ。

卒業演奏会で何を歌いたいか考える

まずは卒業演奏会で歌いたいレパートリーについて考えます

学士過程は修士課程と異なりカリキュラムがしっかりと決まっています。
また、コンサートも学校側の企画に出演することがほとんどで、自分で企画することもあまりありません。
ですので、学生が好きな時代、好きな分野ばかりを選んで本番をする機会は少ないです。

しかし卒業演奏会は、学生が自主的にプログラムを考えられる機会となります。
好きな作曲家、得意なテクニック、審査員へのアピール、将来専門的に演奏したい分野などを考慮して、レパートリーを選びます。

とにかく卒論テーマのアイディアを書き出してみる

  • 自国語の参考文献を読む
  • ほかの学生の論文テーマをリサーチする
  • 論文データベースサイトを見る

などの方法で頭を卒論モードにした状態で、実現可能かどうかについては考えず、思いつくままにテーマになりそうなアイディアを書き出してみます

いわゆるブレインストーミング方式です。
管理人は1週間ぐらいかけて、20近い論文タイトルらしきものをノートに羅列しました。

この段階では「本当に書けるのだろうか」などと考えないことがコツです
「でも」とか「やっぱり無理では」など否定的な言葉は禁句
卒業演奏会のプログラムについても、今は脇に置いておきましょう。
ひとつでも多くアイディアを出せたら、自分を褒めてあげること!

アイディア出しに行き詰ったら、先人の論文タイトルを眺めるのもひとつの方法です。

学生の論文タイトル一覧をWEB上に公開している大学もあります。
音楽関係の卒論一覧を見ていると、面白そう、とか、この路線でこんなのはどうだろう、とかアイディアが浮かんできます。

ある程度テーマがしぼれたら、論文データベースサイト「CiNii(NII学術情報ナビゲータ[サイニィ])」で、フリーワード検索してみるのも助けになります。

楽譜や参考文献の有無と量、入手可能か

少し時間をおいて、自分の書いたリストを見直してみます。

冷静に考えると実現可能な論文テーマはそんなに多くないはず。
いくつかのアイディアをまとめて1つの論文にするのもアリだと思います。

2~3つのテーマに絞った段階で、楽譜や参考文献について調べます。

この段階では、

  • 楽譜は残っているのか
  • 参考文献はどれぐらいあるのか
  • 楽譜、参考文献ともに近隣の図書館で利用できるのか

を確認します。
本格的に読み進めるのは、担当教授と話し合って卒論テーマの承認をもらったあとです。

楽譜について

楽譜は現代の印刷譜が出ているのか、ファクシミリ版のみなのか、どこの図書館にあるのか、などを図書検索サイトで調べます。

ドイツまで行かないと見られないとか、ロンドンの図書館に手稿譜が保存されているだけ、などだとハードルが高いです。

博士論文ではなく学士の卒論ですから、自分の音楽院の図書館、自分の街の国立図書館(ヴェネツィアだと「マルチャーナ国立図書館」)、近隣の街の大学や図書館ぐらいの範囲で入手できる資料を使えばよいと思います。

イタリアと西ヨーロッパの図書検索の方法については、過去記事「文献調査の手法」の中の「RISM CATALOG on line で検索」や「OPAC SBN on lineで所蔵図書館を探す」の項目に書いています。

楽譜以外の参考文献、過去の論文にあたる

参考文献、先行研究を調べるときにも、論文データベースサイト「CiNii」は便利です。
ただしここで調べられるのは日本語の論文だけです。

論文ではなく出版された本ならば、海外の参考文献の日本語訳が出ていることもあります。
しかし専門的な内容の本は絶版になっているものも多いです。
絶版になっていた場合は、日本の国立国会図書館を利用するのが便利です。
著作権法の範囲内で、半分を越えないページ数までならコピーもできます(依頼してコピーしてもらう方式、有料)。

参考文献は無いと困るけれど、多すぎても読むのが大変
そもそも先行研究だらけの分野だと、資料をまとめただけで卒論が終わってしまいます。

とはいえ――学士論文は高いレベルを期待されているわけではないので、たくさん文献を読んでまとめた上で、少々書き手の考えを足してやればOKかも知れません……

研究計画書を作って担当の先生にうかがいを立てる

管理人は、A4用紙で1~2ページの簡単な研究計画書を作って、バロック声楽の担当教授に見てもらいました。

大学によっては研究計画書の提出が義務付けられているところもあるようですが、私の記憶が確かならば中央大学の卒論のときも、そんなシステムはなかったと思います。

イタリア語力が高くて口頭でばりばりプレゼンができるなら、パソコンで打ち出さなくてもよいと思います。

でも管理人の門下では、留学生が本人の希望したテーマを3つとも却下され、かわりに「留学生の自国の伝統音楽と、西洋の古楽の比較研究」というテーマに決めさせられていました。
しかもこの学生が得意とするレパートリーは1700年代とそれ以降なのに、卒業演奏会で1500年代のマドリガーレを歌わなければならないという事態に……。

卒論で興味のないテーマを扱うのはつらいし、卒業演奏会で実力を発揮できないジャンルを歌うのも不利です。
この状況を見ていたので、自分の選んだテーマで論文を書くため念入りに準備しました。

研究計画書に書いたのは以下の内容です。

  • Argomento
    研究テーマとその説明(研究手法)
  • Scopo
    目的。この研究が何にどう役立つのか
  • Motivo
    動機。なぜこのテーマを選んだのか
  • Bibliografia
    参考文献
  • 卒業演奏会のプログラムの予見

準備の甲斐あって、論文テーマは一発OKをもらえました!

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卒論の準備はどれぐらい前からはじめるべき?

まわりのイタリア人学生を見ていると大体、以下に書いたようなスケジュールです。

でも語学力にハンディがある場合は、ネイティブの学生より早めに動いた方がよいです。

留学生でも経済力か人脈、もしくはその両方を持っているなら短期間で仕上げられます――管理人が実際に見た例では、イタリア語の資料を自国語に訳すために翻訳家に頼み、また自国語で論文を書いた後でイタリア人翻訳家に論文の完成を依頼していました。

普通はネイティブの友人に、文法チェックをお願いするぐらいですが――

論文テーマは1年前に決める

テーマ自体の決定はかなり早めです。

なぜなら執筆を開始する前に参考文献を読み込む必要があるからです。

音楽系の論文の場合は、”文字の本”だけではなく楽譜かも知れませんし、オペラの台本だったり、CDなどの録音データ、DVDなどのオペラの映像で演出を研究という場合もあると思います。

楽譜の場合、有名な作品ならばクリティカル・エディションなど信頼できる現代譜が出版されていますが、古楽の場合疑わしいエディションや写譜ミスかと思われる手稿譜などと格闘しなければならない事態も想定されますので、早めに動き出すのが吉です。

卒論執筆は2ヶ月を越える長い夏休みの間に集中して行う

多くのイタリア人学生が「文献は全部読んだからあとは夏休みに集中して一気に方を付ける」と言っています。

外国人留学生はもう少し余裕を見る人が多いようです。
修士論文だと半年ぐらいかけている留学生もいました。

「夏休みは休むためにあるんだから、論文に関する質問メールなんて送ってくるな」という教授もいます(少なくともイタリアでは)。
先生と話し合って進めたいことがあるなら、長期休み前に解決しておくと安心です。

おわりに

管理人自身は2020年の夏(6~7月)に論文提出と卒業演奏会をする予定です。

論文テーマについて考え始めたのは2018年の春頃なので卒論提出の2年以上前です。
このころ上記の留学生が”担当教授に論文テーマを決められた事件”が起き、早めに決めておかねば!と焦ったのです。

最初はメディチ版のグレゴリオ聖歌について調べたかったのですが、卒論演奏会のプログラムにふさわしくないので、断念しました。

その後 1734年にサン・ジョヴァンニ・グリゾストモ劇場で初演されたジェミニアーノ・ジャコメッリのオペラ《メローペ》をテーマに据えたものの、卒業演奏会優先で考えすぎたために問題定義や仮説などの論点を見つけられずこれまた断念しました。

結局、現代日本語訳の出ているバロック時代の声楽教本を読みこんだあとで、ブレインストーミング方式でアイディアを出し、そこからふくらませたテーマに決めました。

実際のテーマ決めの話は長くなるので、まだ別の機会に記事にしたいと思います!

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