簡単なイタリア語勉強法 >>

ジェンマ・ベルタニョッリのバロック声楽マスタークラスに参加したよ

ジェンマ・ベルタニョッリのマスタークラス バロック声楽
この記事は約8分で読めます。
スポンサーリンク

7月14日から17日まで、ヴェネツィアのサン・ジョルジョ・マッジョーレ島でジェンマ・ベルタニョッリ(Gemma Bertagnolli)先生のマスタークラス「Accademia Vivaldi 2021 (2021年ヴィヴァルディ・アカデミー)」に参加してきました。

このマスタークラスは、ジョルジョ・チーニ財団(Fondazione Giorgio Cini) 内のアントニオ・ヴィヴァルディ・イタリア協会 (Istituto Italiano Antonio Vivaldi) によって開催されている、ヴィヴァルディの声楽曲を深めるマスタークラス。ですがジェンマ先生はヴィヴァルディ以外でも同時代の作曲家の曲なら見て下さいます。
今回の参加者は筆者も含め、全員ヴィヴァルディの作品を持ってきていました。4日間のレッスンからまとめノートをUPします。

ダ・カーポ・アリアにヴァリエーションを書くときのポイント

ジョルジョ・チーニ財団建物内部

マスタークラスの会場となったジョルジョ・チーニ財団建物内部

ダ・カーポ・アリアでは繰り返しのA部分で、旋律をアレンジして歌います。詳しくは過去記事「ダ・カーポ・アリアとは?」をどうぞ。

ジェンマ先生はその場で即興して、次々と新しいヴァリエーションのアイディアを歌い続けられる天才。筆者が出会ってきた先生方のなかで、チェンバロ伴奏の先生も含めて随一のクリエイティヴィティです。そのコツを知りたいなあと思っていたところヴァリエーションを考える際、気を付けるべき5つのポイントについて話して下さいました! 先日、下のツイートで簡単にふれた5点について深掘りします。

和声にあう旋律を書く

最初に気を付けるべきは和声とバスの動き。ヴァリエーションの旋律が和声にあっていること、バスに対して対位法的に正しく動くことが大切です。

MEMO

ヴァリエーションは同じ音型を繰り返さないのもポイント。たとえオリジナルのメロディが同じリズムや音型を繰り返すプログレッションでも、ダ・カーポでは変化をつける。

アリアのアッフェットにあっていること

Affetto(アッフェット)は「情感」と訳されます。簡単にいえばアリアで表現される喜怒哀楽のこと。ツイートしたように、ゆっくりとした悲しいテキストのアリアに、輝くばかりの高速コロラトゥーラをつめこんだりしない、ということです。

オリジナルのスタイルにあっていること

ダ・カーポ・アリアは1600年代末~1700年代前半に流行した形式です。長い期間ではありませんが、数十年経てば音楽のスタイルは変化します。それぞれの作曲家や国によっても違いがあるので、アリアのスタイルにあわせて考えなければいけません

実際のレッスンでは

たとえば「フレーズ終わりの主音に対して半音下の前打音を加えるのは、フランス音楽のやり方でヴィヴァルディのアリアにはふさわしくない」という指導があった。

どうやって作曲家ひとりひとりのスタイルを学ぶの?

その作曲家のほかの作品を参考にするのがコツ。アッフェットや曲調の似通っているアリアから旋律の動き方を参考にする。バロック時代の作曲家は自分の過去作品の歌詞だけ変えたり、ちょっと編曲して使いまわしたりするので、似ているアリアを探すのは容易。

アリアの音域に注意する

もとのアリアの音域からかけ離れないように。たとえばハイDまで歌えても作曲家の書いた最高音がGなら、BやHまでの音域でおさまるヴァリエーションを書くべきだそうです。

補足

パトリシア・バードンのようなメゾソプラノ歌手がコントラルトの役を歌いながら、ダ・カーポではハイCより高い音を出している録音とか聴いたことがあるんだけど、ジェンマはああいうの好かないそうだ。作曲されたアリアのスタイルとかけ離れてしまうと批判していた。

歌手自身が歌いやすいヴァリエーションを書く

ほかの歌手が歌っているヴァリエーションを真似することはなんの意味もなさない、ダ・カーポ部分のヴァリエーションは、より歌手自身がもつ声の魅力を引き出す旋律にするべき、という話でした。

アジリタのテクニック

アジリタを歌うテクニックは先生によって指導が異なるし、初期バロックと後期バロックの違いもあります。

後期バロックのアジリタを歌うとき

ヴィヴァルディのオペラ《セミラーミデ》よりアリア「Anch'il mar par che sommerga」

ヴィヴァルディのオペラ《セミラーミデ》よりアリア「Anch’il mar par che sommerga」の手稿譜

ジェンマ・ベルタニョッリは「ヴィヴァルディなどのアリアでは空気を声に混ぜず、hを立てずに歌う」というテクニックでした。その理由は「Ha, ha, ha…」と空気を混ぜて歌ってしまうと響きが足りず、オーケストラに埋もれてしまうから。ヴィヴァルディの時代の音楽では歌手がアジリタのフレーズを歌う上で、上の手稿譜のように弦楽器が鳴っていることが多いので、ある程度声量も必要なのです。

初期バロックに見られるTrilloでは

カッチーニ『Le nuove musiche』序文

カッチーニ『Le nuove musiche』(1602年)序文

一方カッチーニやモンテヴェルディなど初期バロックのレパートリーでは、hを挿入するテクニックで歌ってよいとのことでした。

筆者が習ったヴェネツィア音楽院バロック声楽科の教授は、特にルネサンスから初期バロックに精通していたためか、後期バロックのレパートリーでもhを入れるように指導を受けました。ジェンマより10歳ほど年上で世代も違う歌手です。

ヴィヴァルディの曲を演奏するときのテンポ

サン・ジョルジョ・マッジョーレ島からの眺め

マスタークラスの会場となったサン・ジョルジョ・マッジョーレ島からの眺め

イタリア語でいうVelocità (速度)の話です。ヴィヴァルディの曲はヴェネツィアの岸辺に寄せて返す波のように演奏すべきで、遅すぎても速すぎてもよくないということでした。

スピーディーな曲に関する注意

最近ではBPM150ぐらいで16分音符のアジリタを披露する演奏もよく聞かれます。ジェンマ曰く、ああいうのは速すぎるので、中庸を守ることが大切だそうです。
バロック時代のアレグロのアリアでは、バスが八分音符でずっときざんでいる曲によく出会います。つい縦のリズムに乗りがちですが、必ず横の旋律感を感じて息に乗せて歌うように。

スローな曲に関する注意

アンダンテの曲では、水がよどんで止まってしまうようなレントはふさわしくないとのこと。
ゆっくりとした曲でロングトーンがたくさん出てくる場合、全部同じメッサ・ディ・ヴォーチェで歌うなという注意もありました。つねに感情を動かして歌い、生き生きとしたフレーズ感を出しましょう。

メッサ・ディ・ヴォーチェとは

ロングトーンを演奏するとき、pで始めだんだん強くしていき、また弱めてpに戻るテクニック。バロック音楽ではひんぱんに使われる。

あらゆるアッフェットを歌えるように

筆者は基本的にスピーディーな曲のほうが歌いやすいです……が、あらゆる情感を歌えるようにならなければいけません。この話も印象深かったので、マスタークラス後すぐにツイートしました。

マスタークラスに参加してみたい方むけ諸情報

マスタークラス会場

今回マスタークラスがおこなわれた広間

詳しい情報は、ジョルジョ・チーニ財団(Fondazione Giorgio Cini) のWebサイトにUPされます。年3~5回開催され、2019年までは声楽だけでなく通奏低音コースもありました。参加希望者は、演奏を録画した映像を送る必要があります

チェンバロは2台あって、A=415とA=440に調律されていました。過去にはA=415だけだったようなので今後変更もあるかも。

サン・ジョルジョ・マッジョーレ島について

サン・ジョルジョ・マッジョーレ島はヴェネツィア本島やジュデッカ島と橋でつながっていません。訪れるには必ずヴァポレットなど水の便が必要

島の中にはスーパーマーケットやコンビニはなく、サン・ジョルジョ・カフェというレストランがあるだけ。オーダーしてから料理が届くまでがめちゃくちゃ遅いので、マスタークラスの休憩時間に利用するのは不便そう。筆者は自宅から昼食を持参したので、レストランは利用していません(テイクアウトやバーカウンターがなく不経済だから)。

宿泊施設について

マスタークラス参加者は、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島内の宿泊施設に泊まれます。今回もらったメールではシングルルーム1晩55ユーロ、ダブルベッドルーム1晩85ユーロでした。2021年現在の話なので今後変わるかも。

施設内には軽食を販売する自販機、室内には電子レンジがあります。声出しなど練習も許可されいるそう。ちなみに筆者はヴェネツィア本島から通ったので泊まっていません。

マスタークラス会場について

会場はジョルジョ・チーニ財団の建物内ですが、部屋自体は毎回同じとは限りません。今回はシャンデリアのかかったアンティークな空間。響きも良く歌いやすかったです。ただかなりクーラーが効いていて、羽織るものが欲しい温度でした。

そうそう、参加者向けにペットボトルのミネラルウォーターが用意されていました。
また楽譜についてもヴィヴァルディ協会の会長が、ファクシミリ版のコピーを用意してくれています。

ということで参考なればと思います!

コメントを残す