バロック声楽レッスン1年次の授業計画書と試験プログラム

バロック声楽
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バロック声楽科3年間の必修科目一覧」では、すべての必修科目を列挙しましたが、この記事では、1つの科目にしぼって詳しく授業内容をお伝えしようと思います

まずはじめは学士過程1年目の「バロック声楽から。

(今回の画像も学校で撮りました! 教室の奥にある小部屋です)

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具体的な授業風景

バロック声楽のレッスンは、声楽のレッスンを受けた方なら誰でも想像できると思います。
少し異なる面があるとしたら、

  • 伴奏はチェンバロで行われる。
  • 17~18世紀の印刷譜(stampa antica)、コピスタ(写譜家)による手稿譜(mano scritto)を読まなければならない。
  • そのため歌の旋律はソプラノ記号やテノール記号など声種にあわせた音部記号で書かれており、ト音記号じゃないので読みにくい・・・

例えばこんな感じです。
歌の旋律がソプラノ記号で書かれているのが分かると思います。 

アレッサンドロ・マルチェッロ(1669-1747)のカンタータ

アレッサンドロ・マルチェッロ(1669-1747)のカンタータ

この楽譜ではバッソの音部記号が時々テノール記号に変わっています。
ヘ音記号で通してくれるとありがたいのですが・・・その点、やや読みにくいです。
バッソに数字をたくさん振ってくれる点はグッジョブなんですが。


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1年次のレッスン内容

ヴェネツィア音楽院のWEBサイトに載っている授業計画書と試験内容を載せます。

そして実際その通りレッスンが進められたのかも見ていきましょう。

授業計画書

1年次は1600年代前半――いわゆる初期バロックを中心に学びます。
音楽院のサイトに載っている「レパートリー」によれば・・・

  • 1500年代の多声音楽のスタイルで書かれた曲
  • カッチーニ、モンテヴェルディ、フレスコバルディなどイタリアの独唱マドリガーレ※1かアリア
  • レチタール・カンタンド※2様式
  • グランディ、モンテヴェルディ、カヴァッリなど17世紀のイタリアのモッテット※3
  • ペーリ、マルコ・ダ・ガリアーノ、モンテヴェルディ、スカルラッティ、カヴァッリなど17世紀のイタリアオペラ黎明期の作品
  • 17世紀前半のフランス語、英語、スペイン語、ドイツ語などの作品

ちょこっと用語解説

※1 マドリガーレ

音楽史を学んでいると中世にも「マドリガーレ」が出てきてまぎらわしいのですが、別物です。
厳密にいうと詩に共通点がありますが、音楽院の授業計画書が示しているマドリガーレはルネサンス時代に生まれたもので、バロック時代初期にもたくさん作曲されています

歌詞は世俗的な内容で恋の歌、特に羊飼いとニンフの恋を描いたパストラーレ(理想化された田園を舞台にした牧歌的な詩、音楽)が多いと感じます。
パストラーレの主題自体は初期バロックに限らず、中期以降のカンタータでも人気の題材ですが・・・(政治や社交に疲れた貴族の現実逃避的な好みなのかな?)

「授業計画書」の文面に”独唱”とついているように、多声のものもたくさん作曲されています

※2 レチタール・カンタンド
直訳すると「歌い演じる」となる通り、アリアよりもっとレチタティーヴォに近い書法で書かれた音楽です。
1500年代末から1600年代前半によく見られ、当時としては最新のスタイルでした。
古代ギリシャ・ローマ時代の文化を理想とみなしたルネサンスという時代の、音楽における成果だといえましょう。
イタリアの文化人たちは、”ギリシャ時代の演劇において、セリフは節をつけて朗唱された”と考えていました(日本の能における謡(うたい)みたいですよね!)。
そのスタイルを復活しようと試みて生まれたのがレチタール・カンタンド様式の音楽です。

実際に歌う時に注意することは、歌い上げずに、表現を重視することです。
アリア以上に演じることが求められます
が、レチタティーヴォとアリオーゾの中間のような旋律が延々と続くので、曲を覚えるのに苦労します・・・
レチタール・カンタンド様式から生まれたオペラが、100年後にはレチタティーヴォとアリアがはっきりと分かれた「番号オペラ」に進化していくのが、なんとも面白いです。
※3 モッテット
日本では「モテット」と呼ばれていたと思います。
音楽史を勉強していると中世に「モテトゥス」というジャンルが登場します。
イタリアでは時にこちらもモッテットと呼ぶことがあるのでまぎらわしい上、マドリガーレと違って連綿と続いてきた中でスタイルが変化していったので、別物とも言いづらいです。
耳で聴いたら、1300年代の音楽と1600年代の音楽ですから全然違うのですが、宗教的なテキストを持つという共通点があります。
またルネサンス期のモッテットは多声音楽ですが、バロック時代になると独唱のモッテットも多く作曲されており、バロック声楽の授業でよく取り上げるのはこの独唱モッテットです
実際的な話をすれば、声楽の先生から「次はマドリガーレをやりましょう」と言われたら初期バロの世俗曲なんだなと思い、「これはモッテットですよ」と言われたら初期バロの宗教曲なんだなと思えばOKです。

実際の授業内容は・・・

おおむね計画書の通りでした。

が、グランディ、マルコ・ダ・ガリアーノなどふれなかった作曲家の名前もちらほら。
そのかわり、ここには挙がっていない初期バロックの作曲家の曲を色々と取り上げました。
バルバラ・ストロッツィフランチェスカ・カッチーニなど女流作曲家の曲も歌いました。

でも1年次のリストに、アレッサンドロ・スカルラッティの名前があがっているのは驚きますね・・・ちなみに彼のカンタータを2年次に勉強しました。

なお、1年次はイタリア語とラテン語の曲しか学んでいません。外国人だからだと思います。
イタリア人の学生はかなり早い時期から英語の曲に挑戦していました。

1年次の終了試験

年間計画書で定められているプログラム

学校のサイトによれば、1年次の終了試験で歌うプログラムは・・・

  • 17世紀前半のイタリアの作品から、レチタティーボ形式のアリア、もしくは独唱マドリガーレ
  • 17世紀前半のイタリアのモッテット
  • オペラアリア

となっています。

それから簡単な曲を初見で歌うという課題もあります。
こちらは初見なので準備する必要はなし。
初見用の楽譜はご安心ください――読みやすい現代の印刷譜です。
ただし、曲は試験のプログラムと同じ1600年代前半の作品です。

実際に試験用に用意した曲

管理人は、

  • カッチーニ、カッツァーティ、サラチーニのマドリガーレ
  • ヴィアダーナ、ペッレグリーニのモッテット
  • モンテヴェルディ、カヴァッリ、それから一人時代が違うのですがストラデッラのアリアを用意しました。

なお、レッスンで勉強する曲も試験曲もすべて担当の先生が選んで下さいますが、こういう先生は珍しいと思います。
助かりますが、たまには自分で選んだ曲も歌いたいものです。

まとめ

バロック声楽科の学士過程1年目は、しっかりと初期バロックを学ぶことがお分かりいただけたかと思います。

管理人は1年次終了試験を翌年2月に受けたため、1年半ほど初期バロ漬けになっていました・・・。

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