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【バロックオペラのDVD BOOK】ヘンデルの《セルセ》魅力の理由

ヘンデルのオペラ《セルセ》DVDオペラ《セルセ》
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イタリアの音楽院で古楽を学んでいるヴェルヴェッティーノ( @_velvettino)です。
今日はバロックオペラの名作、ヘンデル作《セルセ》のDVD BOOKを紹介します!
ヘンデルの音楽はもちろんのこと、歌手陣も演出もお気に入りです。

筆者にとって《セルセ》は、音楽院の卒論テーマに選ぶほど好きなオペラ。思い返せば、このDVDを観たことが《セルセ》にハマった理由のひとつだったニャ。

バロックオペラの名作、ヘンデルの《セルセ》

ヘンデルの《セルセ》は1738年、ロンドンで初演されました。
有名な「オンブラ・マイ・フ」は《セルセ》の第一幕冒頭で歌われるアリオーゾです。

《セルセ》のあらすじについては過去記事をごらんください。

《セルセ》はヘンデルのオペラの中では喜劇的

《セルセ》はヘンデルのオペラの中では喜劇的な作品だといわれています。
ただ、ヘンデルが20代の頃イタリアで作曲した《アグリッピーナ》も、風刺的な笑いがところどころに散りばめられていますので、《セルセ》が唯一のコミカルなオペラというわけではなさそうです。

また喜劇的といっても、ロッシーニの《セビリアの理髪師》のようにコメディ要素満載というわけではありません。
むしろモーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》のように、コミカルな要素がありながらシリアスな場面もある――両面を描くことで登場人物の心理に奥行きが増し、より魅力的に感じるような作品です。

《セルセ》に喜劇的な要素が含まれているのは、台本に理由があります
それは、100年前のヴェネツィア・オペラの影響が残っているから――詳しくは「オペラ《セルセ》の台本について」をお読みください。

クリストフ・ルセが指揮したヘンデルの《セルセ》

このDVD Bookに収められているのは、2000年にドレスデン音楽祭で上演された舞台の映像です。

指揮はクリストフ・ルセ

指揮は古楽演奏で有名なクリストフ・ルセ
はつらつとした演奏で、ヘンデルの音楽の楽しさを存分に味わえます
でも決して、近年ありがちな走りすぎるテンポではないのでご安心を。

古楽オケはレ・タラン・リリク

もちろん古楽器の演奏です。軽やかで繊細な音色が美しいです。

歌手陣は?

登場人物名と初演時の配役は過去記事をご覧ください。

初演時カストラートのカッファレッリが歌ったセルセ役は、メゾソプラノのポーラ・ラスマッセンがつとめています。

登場人物初演時の歌手と声種
セルセ
(ペルシャの王)
ポーラ・ラスマッセン
(メゾソプラノ)
アルサメーネ
(セルセの弟)
アン・ハレンベリ
(メゾソプラノ)
アマストゥレ
(他国の姫君、
セルセの婚約者)
パトリシア・バードン
(メゾソプラノ)
ロミルダ
(アルサメーネの恋人)
イザベル・バイラクダリアン
(ソプラノ)
アタランタ
(ロミルダの妹。
アルサメーネに恋している)
サンドリーヌ・ピオー
(ソプラノ)
アリオダーテ
(ロミルダ姉妹の父、
セルセ配下の将軍)
マルチェッロ・リッピ
(バス)
エルヴィーロ
(アルサメーネの従者)
マッテーオ・ペイローネ
(バス)

初演時から、セルセの弟アルサメーネは女性歌手が演じていました。
一方で、隣国の姫君アマストレは役柄も歌手も女性ですが身分を隠しており、オペラの作中で一貫して男装しています。
魅惑のオペラ 28巻 セルセ (DVD BOOK) (小学館DVD BOOK)では、誰が男で、誰が男装している女性なのか分かりやすい演出なので、ストーリー的に混乱せず観られるのもよい点。
とはいえ、観客を幻惑するようなジェンダーのあいまいさが、バロックオペラの魅力のひとつではありますが・・・

メゾソプラノ歌手ポーラ・ラスマッセンの声が好き

声の好みは人それぞれですが……

ポーラ・ラスマッセンがすんごい美声! ずっと聴いていたい……

重すぎず硬くもない、表現豊かなメゾソプラノで、本当に好きな声です。

コントラルトに近いパトリシア・バードンも素晴らしい

筆者は魅惑のオペラ 28巻 セルセ (DVD BOOK) (小学館DVD BOOK)を観るより前に、ヘンデルのほかのオペラ《オルランド》のCDを聴いていました。

オルランド役を歌うパトリシア・バードンの深い落ち着いた声がすごくかっこよかった――特にオルランドが正気を失うシーンの表現力は圧巻でした。

というわけで、パトリシア・バードンはもともと好きなメゾ。解説書ではメゾと書かれていますがコントラルトのような音色です。

落ち着いたきれいな演出で安心

演出はミヒャエル・ハンペ。
バロックオペラで時々見かける新進気鋭(苦笑)の演出ではなく、美しい舞台で安心して観られます

エルヴィーロのようなコミカルなキャラクターも、歌手の演技力で笑いを誘うもので、行き過ぎたメイクや衣装もないし、落ち着いた演出で本当によかったです。

バロックオペラのDVD BOOKってどうよ?

オペラは生で聴くのが一番?

劇場で観るオペラは、歌手や指揮者の熱気まで伝わってきて最高です。
音色に関しても、特に古楽器の場合は生で楽しみたいものです。
チェンバロのように倍音の豊かな楽器は、録音だとどうしても音色が変わってしまうから。

その一方で、映像でオペラを観るのは違った楽しさがあります。

理由は・・・

  1. 歌手の表情が見やすいので、映画のように楽しめる
  2. 字幕が画面のすぐ下に出るので、ストーリーを追いやすい
  3. 何度でも繰り返し観られる

というわけで、劇場に足を運ぶのとはまた違った楽しみ方ができると思います。

映画のように楽しめる

魅惑のオペラ 28巻 セルセ (DVD BOOK) (小学館DVD BOOK)歌手陣がみな若く、見目麗しい――これ、映像で観る場合には結構プラス要素です。

劇場で聴くなら、ふっくらすぎる体型でも声の素晴らしさで圧倒されますが、DVDで観ると表情まで大写しになるので、美男美女が演じていた方が邪魔されずに作品世界に没頭できるというもの……
まあこの作品だと美男の中身も女性なんですが(バロックオペラあるある)。

オペラ歌手は舞台役者でもあるので、皆さんしっかり演技されています
でも学割の安いチケットで天井桟敷から眺めていると、オペラグラスを使ってさえ表情まで見えないんですよね……

それがDVDだと映画のように楽しめるので、オペラの登場人物への愛情も増し増しです。

オペラのストーリーも楽しめる

ヘンデルの《セルセ》は、ストーリーも楽しめます。

バロックオペラにありがちな4時間も5時間も続く超大作でもなく、えんえんと続くイタリア語のレチタティーヴォもありません。

理由は、イタリア語に不慣れなロンドンの観客のために作られたから
しかも《セルセ》が作曲された1730年代後半、ロンドンでのイタリアオペラの流行は下火になっており、代わって人気を博していたのが英語のコメディ音楽劇でした。
 「バロックオペラの歴史 -18世紀前半のロンドンとヘンデルの活動-」に詳しく書いています。

モンテヴェルディの《オルフェオ》でバロックオペラに挫折した人も、ヘンデルの《セルセ》はまったく別物だから、きっと楽しめるよ!!

何度でも繰り返し観られる

DVDだと頭出しが簡単だから、好きなアリアを繰り返し観られる……ふふふ・・・

《セルセ》には魅力的な音楽がたくさん出てくるんです。
そのほんの一部を「ヘンデルの《セルセ》には魅力的なアリアがたくさんあるよ」で紹介しています。

小学館DVD BOOKシリーズはなかなか楽しい

DVD BOOKというのは、DVDに充実した解説書が付属しているもの。解説書の内容は、

  • あらすじ
  • イタリア語台本
  • 日本語の全訳
  • 作曲家ヘンデルについて……などなど

これが”解説書”というような硬い雰囲気ではなく、映画館で買うパンフレットのような楽しい分かりやすい編集になっています。
まちがっても「音楽史的な観点から考察すると――」なんて小難しいことは書いていません。小学館さんいい仕事するなぁ。このブログも見習いたい!

バロックオペラをDVDで楽しんでみよう(あとがき)

日本では(イタリアでさえ)、あまりひんぱんに演じられるわけではないバロックオペラ。
だからこそDVDでリリースされてラッキーでした。
DVDを観て
「ヘンデルのオペラっておもしろいじゃん!」
とか、
「バロックオペラっていいね!」
と、たくさんの人に気に入っていただきたい
です。

劇場で観ると多少、演出に難があっても音楽の素晴らしさで楽しめるもの。でも映像化されると、衣装・背景・演出などが気になります。
その点、魅惑のオペラ 28巻 セルセ (DVD BOOK) (小学館DVD BOOK)センスの良い、落ち着いた演出なので、安心しておすすめできます。

ネタバレになるので詳細は書きませんが、クライマックスとなる第三幕11場、セルセが 「Crude furie degl’orridi abissi(恐るべき冥府の荒々しいフリアイ(復讐の女神)たちよ)」を歌うシーンの演出にはびっくりしました。
奇をてらったことはしないけれど、インパクトのある演出です。

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