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バロックオペラ歌手になるには古楽科or声楽科どちらで学ぶべき?

バロック声楽
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オペラ歌手になりたい学生の中でも、特にバロックオペラに出演する歌い手を目指したい場合は、古楽科に入学してバロック声楽を専攻すべきか、それとも普通の声楽科で学ぶべきなのでしょうか?

管理人はバロックオペラを志向しながら、普通の声楽科には見向きもせず、迷いなくバロック声楽を選びました。
しかし入学して3年経った今では、バロック声楽専攻のカリキュラムはオペラの舞台を見据えたものではないと感じています。

結論から言うと、バロック声楽を専攻として学びながら、オペラ歌手になるのに必要な科目を他学部履修で取るのがよいかと思います。
しかし実際こういう方法で学んでいる人を見たわけではありません。
勉強しなければならない内容が増えるので、外国人留学生や、働きながら学ぶ学生には大変な方法だと思います。

少しずつ変化の兆しは見えますが、イタリアでオペラと言えばいまだ、ヴェルディ、プッチーニがイメージされるように感じます。

そのため現状のカリキュラムは、バロックオペラの歌い手を育てることは考えられていないのではないかと思います。

バロック声楽専攻で学べること

バロック声楽科の教室

バロック声楽科の教室

ヴェネツィア音楽院の古楽科バロック声楽専攻のカリキュラムについては、以下の記事をご覧ください!

上の記事からも分かるように、実技だけでなく音律や対位法など幅広く古楽に関する知識を身につけることができます

バロック声楽の実技レッスンは、

  • 1年目は1600年代前半
  • 2年目は1600年代後半
  • 3年目は1700年代前半

となっています。実際は前後しますが、おおむねこの通り学んできました。

バロックオペラ歌手を目指す人が、バロック声楽専攻で学ぶメリット

古楽のスタイルをきっちりと学ぶことができますし、アジリタやトリル、メッサ・ディ・ヴォーチェなどバロック音楽に欠かせない技法をしっかりと身につけられます

とはいえ、バロック音楽に対する解釈は様々で、教授によってスタイルが異なります
それぞれの教授が好きな時代と提唱しているスタイルには関連性がうかがえます。

具体的には、1600年代末~1700年代前半のヘンデルやヴィヴァルディなどのバロックオペラが好きな教授は、初期バロックを好む教授に比べて、よりアグレッシブな演奏を求める傾向にあります。

どうしても教授と解釈があわない場合は、近隣の街の音楽院に転校するという選択肢もありだと思います。
日本から留学手続きをすると、「EU圏外学生枠」が存在する音楽院――たいていは学生数の多い音楽院しか受験できません。
バロック声楽科が設置されていない音楽院も多いので、選択肢が限られてしまいます。

でも現地に来てしてしまえば、留学生も「EU圏外学生枠」にとらわれずに学校を選んでいます。

バロックオペラ歌手を目指す人が、バロック声楽専攻で学ぶデメリット

デメリットは、バロック声楽科3年間の必修科目一覧にも書いたように、舞台上での演技に関する授業が少ないことです。

バロック声楽科のカリキュラムに、3年次になってようやく登場する「舞台表現演習」は、演出家の先生が演技の指導をして下さる授業です。

普通の声楽科では1年次から3年間学びます。
そして実際の演習だけでなく「舞台表現理論」という科目もあります。
つまり、週に2コマずつ演技に関する授業が3年間続くのです。

バロック声楽科3年間の必修科目一覧から引用)

この欠点をカバーするためには、声楽科の学生たちと同じだけ、「自由選択科目」として舞台表現に関する授業を履修することだと思います。

授業数が増えて大変だとは思いますが、オペラへの情熱があれば演技の授業には興味を掻き立てられるでしょうから、忙しさなど乗り越えられるのではないでしょうか。

バロック声楽専攻のある音楽院を選ぶ際に気を付けること

カリキュラムが決まっているとはいえ、レッスン内容にも音楽づくりのスタイルにも、教授の得意とする時代、好みの作曲家が反映されます

ですので、「音楽院留学をする前に短期留学をおすすめする理由」に書いたように、入学前に教授の傾向を見極めておくべきですが、下記のような難点もあります。

国立音楽院の教授には異動がある。

これは実際にあった話です。
ある留学生が習いたい教授のいる音楽院を受験し、無事合格したにもかかわらず、その学生が入学した年、その教授はほかの街の音楽院に異動してしまったそうです。

この留学生は入学した音楽院で学びながら、習いたかった教授がほかの街で行うマスタークラスにはるばる参加していました。

教授の異動はそんなに多いとは感じませんのでレアケースだと思いますが、習いたい先生を追いかけて転校してきた学生も見たことがあります。

国立音楽院の教授は受験生にレッスンをしてはいけないことになっている。

お金を受け取ってのレッスンは法律で禁止されているそうです。
どの程度守られているかは分かりませんが、入学前にお試しレッスンをする場合は、こっそりお願いしなくてはなりません。

たとえレッスンを受けられても、数回の指導で教授の方向性を見極めるのは困難

入学希望者だと言わなければレッスンを受けることは可能です。
実際管理人は受験する年の4月上旬にレッスンを受けました。
管理人が受験した2016年は、受験音楽院を決めてイタリア文化会館に提出する締め切りが4月末だったので、4月上旬の段階では2つの音楽院にしぼってはいたものの、まだ受験を決定していたわけではありませんでした。

志望音楽院の教授の名前でネット検索して、コンサートのレパートリーやディスコグラフィなどの情報を集め、一人の先生はコンサートへ実際に足を運び、すでにコンサート活動から遠ざかっている先生についてもYouTubeで演奏を聴きました。
さらに短期留学をして3回のレッスンを受けました。

それでも同じバロック音楽とはいえ、自分の好きな時代と100年の誤差があるとは分からなかったですね~。

いっそのこと、「一番好きな作曲家は誰ですか?」とズケズケ訊いてしまうのが、一番確かかも知れませんね!

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声楽科で学べること

声楽科の試験に使われる学校内のホール

声楽科の試験に使われる学校内のホール

管理人は普通の声楽科には在籍していませんので、ここに書くことは声楽科の子から聞いた話や、音楽院のWEBサイトに載っているカリキュラムを参照したものです。

バロックオペラ歌手を目指す人が、声楽科で学ぶメリット

上記に書いたように、舞台表現や演技に関する授業が充実していることがカリキュラム上のメリットですが、それだけではありません。

学校のオペラプロジェクトはオーディションによって出演する学生を選びますが、その審査員には声楽科の先生が含まれています。
また舞台表現や演技に関する授業を担当している演出家の先生もいらっしゃいます。
「オペラの歴史」や「オペラの台本、詩と韻律」などの授業を担当している先生も審査員を務められていますが、声楽科の学生はこうした授業が必修です。
古楽科でも「声楽の歴史」という授業が必修ですが、学ぶ時代が違うのでほかの先生に習います。

つまりオーディションを受ける前から、声楽科の学生は審査員の先生方と親しいというメリットがあります
(もちろん性格に問題のある学生だったら、問題児ということが知れ渡っているというデメリットにもなるのですが・・・)

また声楽科の学生から、「オペラプロジェクトは声楽科のためのもので、古楽科のプロジェクトではない」という話を聞いたこともあります。
学生がこんなことを言うのは、学校や先生方の考えに影響を受けているからでしょう。

別の声楽科の学生に、
「あなたは古楽科なのね、じゃあオペラに興味はないんでしょう?」
と言われたこともあるので、古楽とオペラは別物という認識も少なからずあるのだと思います。

バロックオペラ歌手を目指す人が、声楽科で学ぶデメリット

サイト上のカリキュラムを見ると、声楽科の学生もバロック音楽から学び始めることになっています。
ですがその割合は少なく、重きも置かれていないようです。

というのは声楽科の子から、
「私はヘンデルが一番好きな作曲家で、彼のオペラを歌うことが夢なの。
でも留学するまで、ヴェネツィア音楽院にバロック声楽専攻があることを知らなかった。
声楽の学士過程を終えたらバロック声楽に移ろうかと思っているんだけど、先生のレッスンはどう?」
と相談されたことがあるからです。

別の先生についている学生からも、「本当はヘンデルが好きで」という話を聞きましたので、特定の教授だけがバロック音楽に疎いというわけではなさそうです。

それはそうと、ヘンデルが人気で嬉しい・・・

バロックオペラ歌手になるには――まとめと結論

以上から管理人の提案としては、

  • 古楽科に在籍してバロック声楽のレッスンを受けることで、バロック音楽に特徴的なスタイル、テクニックを学ぶ
    ヘンデルやヴィヴァルディなど1700年代のバロックオペラなら、モーツァルトからロッシーニぐらいまでの音楽づくりで対応できると思うが、モンテヴェルディやカヴァッリのオペラとなると、古楽科でスタイルを学んでおく必要があるので。
  • 同時に声楽科の学生が必修として学んでいる舞台表現、演技関係の授業を受けること。
    つねに声楽科のカリキュラムに目を光らせて、自分に足りない科目はなんなのかを考えて、自主的にカリキュラムを組むぐらいの覚悟が必要

ということになります。

しかし卒業するためには古楽科の単位もしっかりと取って、卒業論文も書かなければなりません。
レベルⅠ(学士)は3年課程と定められてはいますが、4年間みっちりと学ぶ覚悟で頑張りましょう!

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  1. 紀子 より:

    はじめまして。

    失礼いたします。少し前から
    貴方様のブログを拝見させていただいている者です。

    日本の某音楽大学短期大学をピアノで卒業しましたが
    いろいろあって

    今は、精神病のため自宅療養中です。

    今、住んでいる賃貸マンションには
    おもちゃみたいな電子ピアノ(ヘッドホン)があるだけです。

    久しく音楽とは離れていましたが
    最近は、ある『歌の会』に参加させていただくようになったことから

    忘れていた音楽への愛情のようなものを
    思い出しているところです。

    最近は、一人、家で毎日イタリアバロック音楽(声楽)を、
    隣近所にご迷惑をお掛けしないように練習しております。  

     

    そこで、思うのですが、音楽とはなんでしょうか!?
    バロックがなければ現代もあり得ません!

    バロックにはバロックの良さがあるな~!と
    しみじみ感じております。

    大学では「古楽(バロック)」を学ぶのか「オペラ歌手としてやって
    行きたいのか」選択を迫られるのかもしれませんが

    結局は、

    最後に残るのは
    「あなたが歌いたいのは何か」ということだと
    思います。

    実りの多い人生でありますように。

  2. イタリア音楽サロン管理人 管理人 より:

    コメントありがとうございます!
    ピアノ科を卒業されたということですが、今は声楽もされているんですね。

    音楽とは何か――非常に深い命題たと思います。
    我々のように演奏したり、作曲したりする立場の人間からすれば、音楽とは自己表現のツールになりますが、聴いて楽しむ人からしたら、癒しですもんね。

    私が歌いたいのは、
    ・1600年代後半~1700前半のバロックオペラのアリア
    ・時代にとらわれずに教会音楽
    ・自分で作曲した曲
    の3種類ですね。

    お互い、音楽と共に実りある人生を歩んでいきたいものですね!