チェンバロのここが好き!ピアノとの違いに着目しつつ楽しい点だけでなく苦労話も…

チェンバロ
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今までずっとピアノを習ってきて、もちろんピアノは好きなんだけど、実はバロック音楽が好きだから、チェンバロに興味があるんだ
テクニックは結構ピアノと違うのかな?
自分で調律しなきゃいけないって聞いたんだけど、できるかな?

・・・というような疑問にお答えするために、この記事を書きました。

というのも、日本でバロック声楽のレッスンをチェンバロで受けていたころ、管理人も同じ関心を持っていたからです。
子供のころはピアノでバッハ・インベンションを練習したけど、チェンバロでバロック音楽のレパートリーを弾いてみたいなあと思い描いていました。

バロック時代の歌を学ぶために留学したイタリアの音楽院で、憧れだったチェンバロの個人レッスンを受けるうち、すっかりチェンバロという楽器にハマり、3年目からチェンバロ科にも登録してしまいました!

そこでこの記事では、ピアノを11年間習ったけど声楽に転向した人間にとって、チェンバロはどんな部分が魅力的だったのかを書きます。

そして後半ではポジティブな要素とは反対に、

チェンバロってこういうところが大変だよね

という点についてもこっそりお伝えします!

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ピアノとチェンバロの違い――ここが楽しい!

ピアノとの違い1、楽しいところ。スピネッタ(小型チェンバロ)

スピネッタ(小型チェンバロ)

バロック音楽の演奏は、自由度が高いので楽しい

ピアノとチェンバロの違いの一つに、レパートリーの違いがあります。
チェンバロで弾く曲は主にバロック時代の音楽です。
もちろん、チェンバロように作曲された現代音楽もありますが、メインのレパートリーとしてバロック音楽は大切な要素です。

装飾を考える楽しさ

どの程度装飾を加えて弾くかは、楽曲の国や時代にもよりますし、奏者によっても差があります。
音楽院のチェンバロの先生は、比較的装飾を加えるよう指導するタイプだと思います。

この装飾を考えるというのが、とても楽しいのです!

例えばガルッピのソナタヘ長調。
第一楽章ラルゴは、楽譜ではこのようにシンプルです。

ガルッピのソナタヘ長調の楽譜

ガルッピのソナタヘ長調

レッスンに行く前は楽譜通り弾いて練習していました。
レッスンで先生が、装飾を付けて演奏する例を実際に弾いて示して下さいました。
オリジナルもシンプルで美しい曲ですが、先生が装飾をつけるとその魅力がより磨かれ輝いてきたように感じました。

上の楽譜には、レッスンを受けたあとで装飾を考えて書き込んでいます
曲が進むに従ってだんだんと装飾が増えて行くようにします。

実際演奏してみるとこんな感じです。

Galuppi-Sonata in F-harpsichord(ガルッピのソナタヘ長調/チェンバロ演奏)

まだチェンバロ科に登録して半年ですので、演奏の未熟さには目をつぶっていただけると幸いです!

通奏低音を弾く楽しさ

チェンバロ・ソロの曲では、演奏すべき音はすべて(装飾音を除いて)楽譜に書いてあります。
一方、歌やソロ楽器の伴奏をするとき、室内楽のアンサンブルと演奏するときには、チェンバロが弾く楽譜はたいてい「bc(=basso continuo, 通奏低音)」としてベースラインだけが書かれています。

通奏低音についての詳しい説明は、こちらの記事「通奏低音とは?」の項目をご覧ください。

この通奏低音を弾くのがとてもおもしろいのです。

どんな和声を弾くかは、旋律楽器やほかのパートから判断したり、作曲家が数字を書き入れている場合もあります。
おおむね決まっているとはいえ、完全に固定されているわけではありません
また右手で自由にオブリガード的な旋律を加えていくこともできます。

楽譜通り演奏することが、1から10を作る表現者の仕事だとしたら、作曲は0から1を生み出すクリエイティブな仕事でしょう。
本当にクリエイティブな仕事には生みの苦しみがともないます。

その点通奏低音を演奏することは、作曲家がすでに0から0.8を作ったあとで、残りの2割を付け足す仕事です
クリエイティブな楽しさを味わいながら、生みの苦しみにさいなまれることもありません。
まさにおいしいとこどりです。

チェンバロの音色がいとおしい

チェンバロ演奏が好きな2つめの理由は、単純にチェンバロの音色が好きだからです。

どこか素朴に感じる純粋な美しさをもっていながら、キラキラと華やかな音色が好みです。

10年以上前、バロック音楽を色々と聴き始めた頃、古楽器の音色に魅了されました。
その中でチェンバロの伴奏で歌えたら幸せだと思い、バロック声楽を習い始めましたが、自分で演奏していてもワクワクします。

ピアノのレパートリーに比べ、チェンバロの時代の音楽が好き

ピアノ曲の名曲といえば、ショパンやリストがまず思い浮かぶのではないでしょうか。

えっ? オスカー・ピーターソン!?
ジャズピアノ最高だよね!!

ではなくて。
一応クラシック音楽の範疇の話を・・・

モーツァルトの時代には、厳密にはまだ現代のピアノにはなっていませんから、ピアノの楽器としての特性を引き出している作曲家というと、ベートーヴェンの中期以降でしょうか。

もちろんロマン派の作曲家たちの音楽も良いのですが、私の好みは1600年代後半から1700年代です。
(あとは20世紀以降のジャズピアノ曲!)

子供のころに弾いたなつかしい曲たちがバロック時代の音楽だった

ピアノを習い始めた子供の頃、初歩の時期に「プレ・インヴェンション」という曲集を使って学びました。
この楽譜は、バッハのインヴェンションを弾く前の練習になるようにと意図されて編集してある楽譜です。
勉強する音楽がクレメンティ、モーツァルト、ベートーヴェン、そしてブラームスとどんどん時代と難度が進んでも、子供のころに弾いたプレ・インヴェンション、好きだったなあと覚えていました

大人になって取り出して見たら、ヘンデルやハッセなど有名なバロック時代の作曲家の作品から、メロディとバッソのみを抜き出して子供でも弾けるように簡単な2声の曲に編集してある楽譜でした。

気になって検索してみたら、今も売られているし使われているんですね!
子供さんのピアノレッスンにぜひ取り入れて欲しい♪

バロック時代はチェンバロの最盛期

実はチェンバロが生まれたのはルネサンス時代
バロック時代に誕生した楽器ではないのです。

でもチェンバロのための曲は、バロック時代にたくさん書かれました
ルネサンスより器楽曲が盛んになったので、合奏にもチェンバロが加わっており出番がたくさんあります。

声楽の伴奏でも大活躍ですが、1600年前後の初期バロック曲ではチェンバロよりリュートの奥ゆかしい音色が合うように感じます。
でもヘンデルやヴィヴァルディの華やかなバロック・オペラの時代には、チェンバロの華麗な音色がぴったりですよね。

一番好きな音楽の時代にイメージが一致する楽器だから、より好きなんだと思います。

ベースラインの下がって行く曲が好き

歌でも器楽曲でも、バロック時代の音楽にはバスが順次進行で降りてゆく曲が多いです。
親しみやすく、ノスタルジックな雰囲気の和音進行になり、たいてい気に入ります。

次第に話がチェンバロの魅力から、バロック音楽を好きな理由になってきたので、このへんでやめておきましょう!
また別の機会に、バロック音楽の魅力について語りたいと思います。

ポピュラー音楽では70年代の楽曲に、ベースラインが下がって行くコード進行が頻繁に聞かれます。
最近は減っていますね。
まさかのチェンバロレッスン中、先生になぜでしょうかね、と質問してみました(するなよ)。
先生の見解は、下っていくベースラインの曲はメロディアスになる、70年代のポピュラー音楽では旋律が重視されたのだろうということでした。
確かに80年代以降、ポピュラー音楽はリズム重視の方向へ進んで行ってると思います。
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ピアノとチェンバロの違い――ここが難しい…

ピアノとの違い2、チェンバロに張られた弦の様子

チェンバロに張られた弦の様子

ピアニストがショパンやリストを弾いているのを聴くと、すごいなあと思っていますよ。
楽譜を見ると真っ黒だし(音符が多い、和音がたくさん)、弾いている内容そのものの複雑さでは足元にも及びませんね。

でもね、チェンバロの学生ならではの苦労している点もあるんです。

チェンバロはとても繊細な楽器

温度・湿度などの環境に左右されやすく、頻繁に調律が必要

古楽の演奏会で、休憩時間にチェンバロの調律を直しているのはよく見かけると思います。
温度・湿度・曲調・弾き方によりますので、何分・何時間連続で演奏したら調律が必要とは一概に言えませんが、ギターやヴァイオリンのチューニングのように、頻繁に調節が必要なのは確かです。

そのため音楽院のチェンバロのレッスンでは、まず初めにチューニングの方法について学びます。
力加減にコツはいるけれど、現代ではスマホアプリのチューナーもありますし、誰でもできますよ。

でも慣れないうちは時間がかかるニャ。
だから練習室のチェンバロの調律が狂っていると、練習時間が圧迫されちゃうんだよにゃあ。。。

バロック時代の音律について

ピアノと違って奏者が誰でも簡単に調律できるので、平均律以外の音律に変えることも比較的容易です。

よく使われていた音律は時代によって変化しますが、バロック時代の鍵盤楽器には様々な音律が使われていました。
初期のころは1/4コンマ中全音律、ヴェネツィアの理論家ツァルリーノが発表した2/7コンマ中全音律、1700年頃からはヴェルクマイスター、その後はキルンベルガーなどです。

フレットのあるリュートのような楽器では、バロック以前にすでに平均律が使われていたそうです。
ではなぜ鍵盤楽器では平均律に調律しなかったのか――音楽院の授業で習った理由は「平均律では、不協和音の不協和らしさが際立って来ないので、曲が平たんになって面白みにかけるから」だそうです。

バッハの「平均律クラヴィーア曲集」が誤訳だというのはよく聞きますね。
イタリアでは「Il clavicembalo ben temperato」と呼ばれています。
直訳すると「よく調律されたチェンバロ」です。

il clavicembalo ben temperato

チェンバロ演奏には繊細なタッチが要求される。

チェンバロは楽器の構造上、ピアノのような強弱はつきません。
その分、音色の差に気を遣わなければなりません。
ゆっくりと鍵盤を押せばやわらかい音色に、速く押せば硬い音色になります。

チェンバロにも色々なタッチの楽器がありますが、たいていピアノより鍵盤が軽いです。
ですのでトリルをつけて演奏するのは弾きやすいですが、ミスタッチが目立つという難しさがあります。
ピアノなら鳴らないような、指がちょっとさわってしまったぐらいで音が鳴ってしまう上、すべての音がほぼ同じ音量で鳴るので、ピアノとは違った慎重さで弾くような感覚があります。

しかも弦をはじくプレクトラ(爪のような部分)の微妙な長さで鍵盤の軽さが変わります。
短く薄く削れば軽くなります。
どの鍵盤も同じぐらいの弾き心地になるように調節するのですが・・・
ちなみにプレクトラは時々折れます。

チェンバロ演奏にはアーティキュレーションが大切

YouTubeの動画などでチェンバロ奏者の指使いを見ていただくと分かるのですが、ピアニストから見ると、正直変な指使いで弾きます。
大きな違いは、2~5番の指が1番(親指)をくぐらないことです。

親指や小指も使って弾くのですが、真ん中の3本の指を多く使い、くぐるかわりに手を並行移動させながら弾きます。

この独特の指使いから、アーティキュレーションが生まれるので、ピアノとは異なる指使いの習慣を身に着ける必要があります。

しかし――バッハの4声など両手がバラバラに動いて旋律を弾くような曲になると、気付けばいつもピアノのようにくぐっています・・・。
(もちろん注意を受ける・・・)

練習用のチェンバロの確保が難しい

ヴェネツィア音楽院には100近いピアノがあると思います。
数えたことはありませんが、すべての部屋にピアノが置いてあります。

一方チェンバロは7台程度しかありません。

音楽院には練習室というシステムはなく、授業に使っていない部屋を練習に使っています。
そのためチェンバロのある部屋で授業があると、練習用のチェンバロを確保するのが難しくなります。

古楽科の学生は全員チェンバロ実技が必修なので、チェンバロで練習したい学生は少なくありません。

チェンバロ奏者を本気で目指すならピアノに触れてはいけない!!

チェンバロのある教室があいていないときは、ピアノで練習すればよいのでしょうか?

ピアノとチェンバロでは、弾き心地が違いすきます

ピアノで練習しすぎてしまうと、むしろチェンバロ演奏にとってはマイナスになると感じるほどです。
ピアノ・タッチではない、安いキーボードで練習した方がマシなくらいです。
もしくは、スポーツ選手のようにイメージトレーニングにとどめておきます。

音楽院のチェンバロ試験と発表会で学んだ3つのこと」に書いたように、発表会の直前にピアノを弾いてしまって、失敗した経験があります。

チェンバロは個体差が激しい

ピアノでも楽器ごとの鍵盤のタッチは異なります。
我が家のピアノは鍵盤が軽かったので、子供のころ発表会で弾くグランドピアノが重く感じて憂鬱でした。

でもチェンバロの個体差はさらに激しいと感じます。
スピネッタ(英語だとスピネット)と呼ばれる小型チェンバロなどは違う名前が付いているのだし、弾き心地が違って当然なのかも知れませんが・・・。

とはいえ、上手な人はどんな楽器でも力を発揮できるのですから、きっと練習あるのみ!なんでしょうね。

ピアノとチェンバロの違いに関するあとがき

大変長くなりましたが、ピアノとの違いに注目しつつ、チェンバロの楽しい部分と難しい点について書いてみました。

チェンバロとピアノは同じ鍵盤楽器ではあっても違う楽器であり、それぞれに固有の美しさ、楽しさがあります。
決して、未熟なチェンバロが高度なピアノに進化したわけではありません・・・
パイプオルガンがシンセサイザーに進化したなどとは誰も言わないのと同じことだと思います。

チェンバロの魅力が伝わっていれば幸いです♪

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