管理人がプレアッカデミコ・コースのチェンバロ科期末試験で弾くプログラムを公開します!
プレアッカデミコ・コースとは
タイトルにもありますように、現在チェンバロはプレアッカデミコ(preaccademico)という課程で学んでいます。
これは、大学学部に相当するレベルⅠ(Triennio)に入る前のコースで、実技レッスンだけを受けられます。
管理人の場合は、声楽を学士過程(Triennio)で学びつつ、同時にチェンバロをプレアッカデミコで習っています。
週1回の実技だけなので、学士や修士の過程と並行できますし、小中学生や高校生が、学校のあと午後の時間帯に通っていることもあります。
音楽院の教授が教えてくれるので、子供のうちからプロフェッショナルな演奏家が目の前で模範演奏を見せてくれるという、恵まれた環境を得られます(しかも国立なので学費も安い)。
チェンバロ期末試験のプログラム
- Luca Marenzio (1553?-1599)
Le versioni di intavolatura d’organo tedesca
Madrigale primo del Quarto libro di madrigali a tre voci
“Fra le Ninfe e fra Pastori” - Madrigale decimonono
“Ad una fresca riva” - François Couperin (1668-1733)
Premier Prèlude da “Arte de toucher le clavecin” - Johann Sebastian Bach (1685-1750)
Invention No. 8 Fa maggiore, BWV 779 - Invention No. 13 La minore, BWV 784
- Sinfonia No. 1 Do maggiore, BWV 787
- Domenico Scarlatti (1685-1757)
Sonata in Fa maggiore, K 6 - Baldassare Galuppi (1706-1785)
Sonata in Fa maggiore (Largo – Allegro)
演奏曲目はこの8曲。
これ以外に初見と、通奏低音課題の演奏があります。
試験後の感想ブログはこちら
プログラムの曲解説
ルカ・マレンツィオの多声音楽
1,2曲目は、ルネサンス後期のイタリア人作曲家ルカ・マレンツィオの多声音楽を、当時のドイツ人音楽家がオルガン用に編曲した「インタヴォラトゥーラ」です。
ルネサンス後期、ドイツではイタリア音楽が最先端の音楽として好まれ、学ばれていたそうです。
こうした編曲版が残っているのは、ルカ・マレンツィオがドイツでも人気の作曲家だったという証。
インタヴォラトゥーラとは、声楽曲を器楽曲に編曲したもの。オルガンなど鍵盤楽器用だけでなく、リュートやテオルボなどの弦楽器用のインタヴォラトゥーラも残っているそうです。
器楽曲用に編曲する際、声楽では挿入しないような装飾を加えたり、指が届く位置に音符を書き換えたり、音域にあわせて移調していたりと、単なる器楽版という範疇にとどまらず、クリエイティブなアレンジになっています。
オルガンで演奏するときに注意すること
試験ではチェンバロで演奏しますが、レッスンではオルガンで勉強しました。
オルガンはチェンバロやピアノのように音が減衰しないので、指を鍵盤から離すタイミングにすごく気を遣う必要があります。
またチェンバロのようにアルペジオしません。
たいてい一人の演奏者がチェンバロとオルガン両方弾けるものですが、楽器の特性がまったく異なるので弾き分けが必要です。
同じ鍵盤楽器だからできるでしょ、なんてことはなく、みんなしっかり弾き分けててすごいなあと思います。
自分が学んではじめて、その難しさに気が付きました。
フランス・バロックからクープラン
この曲は“Arte de toucher le clavecin”(チェンバロの演奏法)という本に載っているだけあって、どのように弾くべきかを作曲家自身が書き記しています。
楽譜にはクープラン自身が付した指使いが書き込まれています。
・・・現代の編集者が勝手につけたものではないので、守らなければなりません!
拍を感じさせないように流れて行く優雅な演奏をしなければならないのがフランス・バロックです。
楽譜を見ると、左手の音符がタイになっていたり、なっていなかったりするのですが「ピアノでペダルを踏んで弾いているように、どの音符もつなげて弾くように」と言われました。
ですので、この音符はタイになってないから切って・・・などと考えずに済むようです。
美しい曲です・・・イタリア人チェンバロ奏者のルイジ・キアリツィアさんがご自身の演奏をYouTubeにUPされているので、よかったら聴いてみて下さい。
バッハの2声と3声の曲
お馴染みインヴェンションから、ヘ長調とイ短調、3声のシンフォニアから1曲目のハ長調の曲です。
子供のころ「どこにテーマが隠れているかみつけましょう」という勉強で、主題を赤鉛筆で丸く囲んでいたのがなつかしいです。
でもこれ、大人が演奏するときにも重要で、テーマに印をつけておくと、テーマの前でフレーズを閉じるのを忘れにくくなります。
チェンバロはピアノのように音量の差でテーマを浮き上がらせることができないので、直前のフレーズの弾き方のニュアンスを変えることで、テーマを際立たせるようにします。
やりすぎると曲の流れが途絶えてしまうので、ちょうどよいニュアンスを出せるようにするのが難しさでもあり、面白さでもあります。
J.S.バッハがたくさん練習曲を残してくれたのは、自分の息子たちの教育のためだったそうですね。
音楽家として身を立たせるために、子供のレベルにあう曲を作ってくれる、熱心で愛情深い父親だなと思って、この話をうちの母にしたとき彼女は「父親が練習曲作ってくれるなんて、子供にとっちゃ迷惑だわね~」と言っていました(笑)
何年も前のことなので彼女は忘れているでしょうが、私にとって母はかなり教育ママだと思っていたので意外でした!(人のことは言う言うって感じ)
ドメニコ・スカルラッティのソナタ
ピアノの人にスカルラッティと言うと必ず息子のドメニコだと思われますが、反対に声楽の人に言うとほぼ確実に父親のアレッサンドロの方だと受け取られるという、スカルラッティ親子です。
管理人にとっての、この親子との理想的な接し方は、父親のほうの器楽曲を古楽アンサンブルで聴くことです。
歌うとなると、ナポリ楽派らしい2度が半音下がった短調の旋律や、情感を熱く表現するクロマティックな旋律が、難しいのです。
なのでバッハ同様、歌うより聴いていたい作曲家。
息子のドメニコさんのほうは、わざと弾きにくく作ってるんじゃないかと思うような箇所があります。
今回弾いたのはK6ですが、以前K9を勉強しているときに「この曲弾きにくくて」と言ったら先生が「練習曲だからあえて弾きにくいように作ってあるのよ」とおっしゃっていました。
ガルッピのソナタ
最後はブラーノ島出身の作曲家ガルッピのソナタです。
ブラーノ島はヴェネツィア本島から45分ぐらいで行ける、レース織りで有名なカラフルな建物の並ぶ島です。
このヘ長調のソナタは、ラルゴとアレグロの2楽章形式になっていますが、特にラルゴが涙が出るほど美しいです。
アレグロのほうも、途中に出てくる半音階で下がって行く部分が、どことなくメロウな雰囲気を醸し出していて堪りません。
バッハの3声やスカルラッティのソナタと比べると弾きやすい曲ですが、現代人の耳にも親しみやすい旋律で、半音程の使い方もおしゃれだし、おすすめです。
ラルゴのほうは装飾を加えて弾きます。
先生が見本を示して下さったとき、嫉妬するほど素敵な装飾を即興で付けられていました。
そのイメージを覚えておいて、自分で考えた装飾を披露したら、先生がとてもきれいだと褒めて下さり、大変嬉しかったです。
チェンバロ奏者の動画のあとに公開したくない気持ちもあるのですが・・・ガルッピは「ヘ長調のソナタ」を複数作曲しているため、YouTubeでみつけるのは至難の業でしたので、自分で弾いて録りました。
チェンバロ科に入ってからは実質半年なので「小中学生の頃ピアノを習っていた人がチェンバロを勉強しはじめると、半年ぐらいでこの程度弾けるようになるのか~」という参考程度に聴いてください。
本当に大好きな曲なので、こんな演奏で曲の良さが伝わるといいのですが・・・
おわりに
プレアッカデミコの1年次に弾く試験プログラムを載せてみました。
8曲ありますが、通して弾くと10分ぐらいしかかからない、短いプログラムです。
短く基礎的な曲ですが、国やスタイルの違いが分かり、勉強になるプログラムだと思います。
試験後に書いた記事もあわせてお読みください!
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いろいろと興味深い情報をありがとうございます。
イタリアの音楽院は日本と違って本格的で難しいのですね。
声楽専攻の方でもピアノでそこまで要求されるのは
「役に立つ、活かせる(卒業後)」音楽を身につける意味で
有効だと思います。
それに、歌だけだとピアノ演奏者にどこをどう弾いてほしいのか
伝えにくいけど、自分が弾けるとより詳しく説明できるのもいいですね!
楽器によって音の伸び方が違うのに
どれも弾きこなすのは至難の業だと思いますが・・・。
私の部屋にあるおもちゃのピアノ、
いろんな音が出るので(笑)
バッハ弾くときはチェンバロやオルガンにして
楽しんでいます。
きのうはバッハの「イタリア」を弾いていました。
この曲は昔から好きなので!
それから、きのうの午後3時ごろ、
トスティの「Addio」を歌っていて
『どうしてぐずぐずしているの、ああ、愛しい人よ』のところから
徐々に盛り上がり
気分が乗ったので、
つい
『永遠に さようなら』のところで声を思いっきり出してしまい
下の階の人に
「うるさい!!」って言われてしまいました。
大失敗です・・・が~ん!!
コメントありがとうございます!
午後3時なら歌っても良さそうなものですが・・・厳しいですね!
トスティは心の動きをそのまま表現するかのように旋律が書いてあって、歌っていても聴いていても美しい音楽ですよね。
イタリア協奏曲、バッハにしては珍しく明朗な曲想がイタリアの日差しを思い起こさせる曲で、好きです。
私もイタリアにピアノを運んできているわけはなく、こちらで購入した安いヤマハのキーボードなので、チェンバロ曲を練習するときは、せめても音色だけチェンバロにしています(苦笑)
私が本格的にチェンバロの課題に取り組んでいるのは、声楽専攻だけでなくチェンバロも同時に専攻しているためです。
でも声楽やヴァイオリン、リコーダーの学生も、チェンバロ・通奏低音実技両方が必修ですし、結構がっつり勉強できます。
でも古楽の声楽を教える仕事をするには、通奏低音を弾けないと生徒さんの伴奏ができませんから、しっかり勉強できて恵まれていると思います。