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バロック声楽《卒業演奏プログラム》歌ってきました!

concerto-finale イタリアの音楽院
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2020年11月5日、筆者は卒業演奏会を終え、イタリア音楽院のバロック声楽科を卒業しました! 卒業演奏会(concerto finale コンチェルト・フィナーレ)、またの名を卒業試験(esame finale エザーメ・フィナーレ)と言って、45分程度のプログラムを組んで試験官である5人の教授の前で歌わなければなりません。この記事では、

  • 卒業演奏プログラムとその和訳
  • どのように卒業演奏プログラムを決めたか(担当教授からのアドバイスも含め)
  • 卒業演奏会を終えた感想、反省点や今後の抱負

などを書いていきたいと思います!

筆者のバロック声楽科卒業演奏プログラム

卒業演奏会のプログラム

卒業演奏会のプログラム

コンサート当日、試験官とお客さんに配ったプログラムだニャ。解説がイタリア語なので和訳するよ。

解説部分はほとんど論文からの引用です。プログラムに論文の内容を反映させるかどうかは学生によって様々。筆者の場合はレクチャーコンサート風にしたかったので載せてみました。

卒業コンサートのプログラム和訳

ヘンデル《セルセ》は1738年、ロンドンのヘイマーケット劇場で初演された。
その台本は、1654年にカヴァッリ(Francesco Cavalli,1602-1676)がヴェネツィアのサンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ劇場のために作曲したオペラ《セルセ Xerse》のためにニコロ・ミナート(1627?-1698)が執筆した台本がベースになっている。
その40年後シルヴィオ・スタンピリア(1664-1725)が改訂し、1694年ローマでボノンチーニ(Giovanni Bononcini,1670-1747)の《セルセ Xerse》が初演された。
それからさらに40年以上後のヘンデル《セルセ Serse》は、不明の台本作家がもう一度改訂した台本が使われている。

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル (1685-1759)

  • Io le dirò che l’amo(「彼女に愛を伝えよう」第一幕よりセルセのアリア)
  • Più che penso alle fiamme(「愛の炎を思うほどに」第一幕よりセルセのアリア)
  • Se bramate d’amar(「あなたが愛し続けるなら」第二幕よりセルセのアリア)

アリア「Se bramate d’amar」の歌詞は、スタンピーリャによってボノンチーニのために追加されたものだ。
ヘンデルもボノンチーニもアレグロ、イ長調、4/4拍子のブラヴーラ・アリアとして付曲している。また「vuò sdegnarvi」にメリスマが書かれている点も共通している。ボノンチーニは素晴らしいチェロ奏者でもあったので、時折バスのパートにチェロの旋律を書くことがあるが、この部分でも、歌のメリスマにチェロのフレーズが応答している。

ジョヴァンニ・ボノンチーニ (1670-1747)

  • Se bramate d’amar(「あなたが愛し続けるなら」第二幕よりセルセのアリア)
  • L’amerò? Non fia vero(「彼を愛せるって?嘘でしょ」第二幕よりロミルダのレチタティーヴォ)
    È gelosia(「それは嫉妬」第二幕よりロミルダのアリア)

第二幕よりロミルダのレチタティーヴォ「L’amerò? Non fia vero」については、カヴァッリ版でも同様のテキストが歌われる。しかし後期バロックのレチタティーヴォ・セッコとは様式が異なっている。レチタティーヴォとアリオーゾが交互にあらわれ、歌と語りの中間のような様式だ。カヴァッリの時代のオペラは、レチタティーヴォとアリアの音楽的な差が小さく連綿と続いているように聴こえるので、人物の感情の流れが途絶えることなく劇としてより自然に感じる。
一方で、アリア「È gelosia」はスタンピーリャによって追加されたテキストである。

フランチェスコ・カヴァッリ (1602 – 1676)

  • L’amerò? Non fia vero(「彼を愛せるって?嘘でしょ」第二幕よりロミルダのアリオーゾとレチタティーヴォ)
  • Lasciatemi morir, stelle spietate(「死なせてくれ、残酷な星々よ」第三幕よりセルセのアリア)

カヴァッリによる珠玉のラメント「Lasciatemi morir」では半音階がテキストの苦しみを表現する。レチタティーヴォではアリオダーテに怒りを爆発させていた彼の内面が、むしろ悲しみに満たされていることが分かる美しいアリアだ。

しかしこのテキストはボノンチーニ版では削除され、レチタティーヴォと同じ気分の怒りのアリア「Crude furie」が追加された。声楽的側面からみればプリモ・ウォーモ役の見せ場となるアリアなので物語のクライマックスにふさわしいといえる。しかし、セルセの貴族的な性格は薄められたと感じる。

ジョヴァンニ・ボノンチーニ

  • Crude furie degl’ orridi abissi(「恐るべき冥府の復讐の女神よ」第三幕よりセルセのアリア)

このアリアからヘンデルがインスピレーションを受けたことは明らかだろう。A部分、B部分それぞれの歌い始めの主題の音型がよく似ている。

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル

  • Crude furie degli orridi abissi(「恐るべき冥府の復讐の女神よ」第三幕よりセルセのアリア)

(ご清聴ありがとうございました)

卒業演奏のプログラムはどうやって決めたのか

おおまかにいえば、好きな曲、得意なテクニックをアピールできる曲を選んでいます。過去記事「音楽院の卒業演奏会(修了コンサート)レポート」に書いたように、ほかの学生の卒業演奏を聴いて、自分の得意な分野を中心にプログラムを組むことが大切だと感じた経験を生かしています。

卒論テーマとの関連性

卒業演奏プログラムは、卒論テーマと関連のある曲を取り上げることが決まっています。すべての曲が関係していなくてもよいそうですが。

筆者の場合は、過去記事「卒論テーマ決めに1年かかった体験談」に書いたように、「ヘンデルの《セルセ》のアリアを歌いたい!」という欲求からテーマを決めています。
いや、テーマだけでなく内容も…… 歌いたいアリアを選んで、論文の中で比較することにしたのです。

「Se bramate」と「Crude furie」、どっちもブラヴーラアリアっていうか、メリスマ聴かせる曲だし、怒ってる歌詞だし、曲調かぶってない?

――という意見もあるでしょうが、言い訳するとバロック後期の、アレグロの怒りのアリアが得意なんです。自分の得意を生かせるプログラムを…… と思ったところ、こうなったわけです。
とはいえ、えんえんメリスマばかり歌うわけにもいかないので、中間にはゆったりとした悲しみのアリアもはさんでいます。「Lasciatemi morir, stelle spietate(死なせてくれ、残酷な星々よ)」がそうですが、アルトのアリアだったこともあり、難しかったです。

音楽院で学んできたことの集大成にすべき?

ヘンデルばかり歌いそうだと思われたのか、担当教授からは「卒演プログラムというのは、今まで学んだことの集大成にするもの」などと小言を言われましたが、右から左に聞き流しました。わざわざ自ら苦手なルネサンスのレパートリーを含める必要はないでしょう。

カヴァッリは1600年代の作曲家で筆者にとっては古めの印象ですが、先生からすればバロック中期。ルネサンスや初期バロックではない。
分かっちゃいるけど、自分の悦びのためにも審査員が出す点数のためにも、好きなもの・得意なものを中心にプログラムを組みました

最初の曲、最後の曲には心配りを

これは通常のコンサートと同様ですが、担当教授からのアドバイスで、プログラムの最初に怒りのアリアや悲しみのアリア、長大な曲を持って来ないようにと言われました。それで選んだのが、第一幕でセルセが(ピリピリしている弟に対し)気楽な調子で歌う「Io le dirò che l’amo」です。1曲目にぴったりだと言われたのでよかった!
またプログラムの最後は、盛り上がる曲がいいですね。

卒業演奏を終えて

実際に歌ってみて、所感と今後の抱負です。

レクチャーコンサート風はぶっつけ本番でやらないこと

同じテキストの曲を2つずつ用意したプログラムの関係上、コンサートの途中で解説をはさみました。イタリア語で。
あらかじめ言うべきことを一字一句決めて書いておいた方がよかったと思います。
用意したカンペを読むのではなく、それを暗記して喋れるのが理想的ですね。

言うべきことを書いておかないと、歌の間奏で「この曲を歌い終わったらこんなことを話そう」と考えてしまう瞬間があり、集中しきれていないことに気付きました。

もし日本で、今回のプログラムでレクチャーコンサートをする機会に恵まれたら、話すことをしっかりと準備して臨みたいと思います。

実技試験後は質疑応答

感情を解放して歌った後で、論文の内容に関する質疑応答を受けなければなりません。
演奏モードと研究モードを瞬時に切り替える必要があり、なかなか難しい!
歌ったままのハイテンションで、ピアノを習い始めた子供時代の思い出など全く論文に関係ないことまでベラベラと喋ってしまいました!

卒業試験の質疑応答については、またそのうち別の記事でふれたいと思います!

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