絶対音感vs相対音感-バロック音楽演奏者から見たメリット・デメリット

絶対音感のメリット、デメリットバロック声楽
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絶対音感を持っている人は、すぐに音名を言い当てることができたり、曲のキー(何調か)が分かったりと、とても便利そうに見えます。

音楽家になるには、やっぱり絶対音感があると有利なのかな?

管理人は、3歳から音楽教室に通ったことで絶対音感が身に付いていました。
11年間ピアノを習ってきただけでなく、バンド活動をしたり、バロック音楽を学んだりと、色々な音楽体験をした中で感じているのは、絶対音感には便利なこともあれば、不便なときもあるということです。

そこでこの記事では、絶対音感と相対音感を比較して、それぞれのメリット・デメリットを書いていこうと思います。

Photo by Denise Jans on Unsplash

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絶対音感とは? 相対音感とどう違うの?

まずは定義の確認です。

絶対音感=固定ド

絶対音感は「固定ド」とも呼ばれる通り、ドの音は常に「ド」という発音で聴こえるように感じます。
音高と音名を記憶で結び付けている能力なので、音楽が――時には音楽以外の音も、ドレミで聴こえます。

例えば、すきま風やサイレンなど音楽以外の音も、ピューとかピーではなく、ドレミで聴こえるわけです。
先日、ヴェネツィアのアックア・アルタに関する記事内で、アックア・アルタを知らせるサイレンについて書きましたが、実はこの音も「シ~レ~ファ~~~」というふうに聴こえています。

相対音感=移動ド

相対音感とは、何調の音楽を聴いても、ハ長調に移調して捉える能力を身に着けた人の音感です。

ピアノ教室の生徒さんに、齢8歳にして相対音感を身に着けている男の子がいました。
彼はテレビなどで聴き覚えた曲をピアノで弾くのですが、必ずハ長調で弾きます。

「続きを教えて」と言われても知らない曲だったので、レッスン中にYoutubeで検索して二人で聴きました。
曲のキーはハ長調ではなかったので私が原曲キーで弾くと、彼は不満そうに「このポジションで弾いて」と、ハ長調に移調するように求めてきました。

知らない曲でも短いフレーズならその場で覚えて弾くことは簡単ですが、ハ長調に瞬間移調して弾くのは頭がごちゃごちゃして、「1回オリジナルキーで譜面に起こしたい」衝動に駆られました。
相対音感を持つ人なら、ハ長調への瞬間移調なんて朝飯前でしょう・・・。

絶対音感と相対音感のメリット・デメリット

ここからは、絶対音感と相対音感のそれそれのメリットとデメリットについて書いてみます。

絶対音感のメリット=相対音感のデメリット

絶対音感のメリットは、すなわち相対音感のデメリットでもあります。

転調の多い聴音課題もスラスラ解ける

聴音の授業や試験では絶対音感を持っていると、相対音感の学生に比べて非常に簡単です。
なぜならどの音も、ドレミという言葉で聴こえているからです。

音楽院の聴音の試験では、先生がまず基準音として「La」の音をピアノで弾きます。
それから課題のフレーズを弾くのですが、相対音感の学生は「La」と課題のフレーズの最初の音の音程を聞き取って、課題の調を聞き取ります

一方、絶対音感の人間は基準音がなくても聴いた曲が何調なのかを瞬間的に把握できます(調性音楽の場合です)。
移調の多い曲や、臨時記号がたくさん現れる曲でも、音名そのものが頭に浮かびます。

「それじゃあ絶対音感の人は聴音課題、楽勝じゃん」と思われるかも知れませんが、リズムを聞き取り譜面に正しく起こす能力に関しては、相対音感の学生と同じように勉強が必要です。

飛び入りセッションも心配無用

管理人は日本に住んでいた会社員時代、月に2回ぐらい、ブルース系のライブバーで行われるセッションデーに遊びに行っていました。

ここでのセッションは、ワンコード、もしくはブルース進行など、単純な和音進行を決めて、その場で出会った人同士が即興でアンサンブルをし、一人ずつソロを回していくというものでした。

キーやコード進行について「それじゃあAのブルースで」などと言葉で言ってくれることはまずありません。
いきなりベーシストがファンキーなベースリフを弾き出したりします。
そこに各パートが乗っかっていくわけです。

私は8割キーボード、2割ぐらいヴォーカルをやっていましたが、ベースの7度上とか9度上のフレーズを乗せてちょっとジャジーな雰囲気を楽しんだりしていました。

絶対音感があったので、すぐにほかのパートの人が弾いている音が分かり、自分の演奏に反映することができたので、即興でセッションをするハードルは相対音感の人よりずいぶん低かったと思います。

譜読みが早く、新しい曲を覚えるのが簡単

絶対音感を持っていると、譜面を見ただけで頭の中のピアノが鳴るので、正しい音程で歌うことが容易になります

絶対音感があれば音痴にはならない?

では、絶対音感持ちに音痴はいないのかというと、少し別の問題になります。

絶対音感を持っていると、自分の歌ったピッチがずれていたら分かります。
でもだからといって、正しいピッチで歌えるとは限りません。
なぜなら、正確なピッチで歌うために声帯を動かす筋肉や神経を微調節する能力は、トレーニングで手に入れるしかないからです。

管理人は小学生の頃、作曲しているとき自分で思わず歌ってしまうと、ピッチがおかしいせいで、思いついた旋律が頭から消えていくという悲しい現象に見舞われていました。
なのでいつも、曲が思いついたら黙って五線譜に向かって書き留めていました。

中学以降、世の中のカラオケブームに乗っかって歌の練習をするようになってからは、思いついたメロディーを歌いながら作曲できるようになりました。

絶対音感があると耳コピも楽ちん

会社員時代よりさらにさかのぼって大学時代、バンドサークルに所属していた頃は、オリジナル曲ではなくコピーバンドとしての活動がほとんどでした。

楽譜がない場合(大体節約のために買わないだけ)、耳コピで演奏することになるのですが、絶対音感を持っていると耳コピがはやいです。
キーボードを担当するときは、音源を聞きながら反射的にコードをつかめるし、ヴォーカルを担当するときも耳から音楽を聴いただけで、歌詞と音名が二重音声のように聴こえているので、すぐにメロディーを音符で歌えるようになります

とはいえ、相対音感持ちのサークルメンバーたちも耳コピでコピバンをやっていたので、絶対音感があったほうが時短になるよ、ぐらいの話です。

絶対音感のデメリット=相対音感のメリット

ここからは、絶対音感のデメリット、つまり相対音感の利点です。
古楽を勉強していると、絶対音感には不便な点もかなりあります。

絶対音感とうまくつきあいながら、バロック音楽を演奏する方法についても書きます。

古楽ピッチで演奏するときに不便

バロック音楽を演奏するときには、便宜的な古楽ピッチとしてA=415(半音下げ)で演奏することがよくあります。

バロック時代の基準音は一様に現代のA=440より低かったわけではなく、むしろ高い地域もあったようですが、現代においてバロック音楽を演奏するときには、A=415という低めのピッチがしばしば使われています。

絶対音感を持っていると、譜面と耳に聴こえる音が半音ずれていることになります

バロック声楽を習い始めたころは、これがなんとも居心地が悪く困難に感じました。

バロック音楽の演奏を続けるうちに、2種類の絶対音感が身に付く!?

当時、バロック声楽の先生に相談したところ、先生の知っている音楽家で絶対音感を持っている人は、「モダンピッチと古楽ピッチ、2種類の音感が自分の中に形成された」と話していたことを教えてくれました。

この話を聞いたときは、なんのこっちゃ?だったのですが、今はA=415で歌ったり弾いたりしているときは、シがドに聴こえるようになりました!

バロック声楽習いたての頃は、気持ち悪くてわざわざ半音低い楽譜をコンピュータで作っていたのですが、今は全くその必要がありません。
成長したな~!

A=440になっている耳をA=415に変えるには

しかし何も考えない状態だと、やっぱりドはドのままです。
これをA=415に切り替えるには、一度A=415に調律したチェンバロでハ長調の音階を弾いてみて、それからⅠ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰのカデンツを弾いてみる――すると、古楽ピッチに切り替えられます。

この方法は音楽院のチェンバロの先生に教えてもらいました。
でもこれも万能な方法ではなくて、例えば午前中に2時間モダンピッチで歌のリハーサルがあり、その後バロックピッチのチェンバロでレッスン、というようなスケジュールだと、午前中にしっかりA=440に固定されてしまうようで、音階と和音をいくつか弾いたぐらいでは切り替えできなかったりします

弾いている音と耳に聴こえる音が食い違ったままなのは気持ち悪いだけでなく、目で追う楽譜と聴こえる音が異なるせいで、演奏の難易度まで上がってしまいますが、1時間ぐらいレッスンをしているうちに、耳がA=415に調節されていくのを待つしかないです。

移調楽器の演奏はさらに困難なのでは・・・

半音ぐらいならまだしも、E♭管のサックスやF管のホルンなど移調楽器を演奏したら、もっと混乱する気がします・・・。

半音ぐらいなら慣れたけれど、3度も4度も違ったら、大変そうだなと思います。

それだからというわけではありませんが、移調楽器を演奏した経験はありません。

アカペラで歌う多声音楽がちょっと苦手

古楽の分野で歌う宗教音楽などには、無伴奏のものもあります。
多分、ゴスペルなどもアカペラのレパートリーがたくさんありますよね?(詳しくない・・・)

無伴奏で多声音楽を歌う場合、メンバー全体が下がってきたら合わせてピッチを下げなければならないし、上がってきたら、合わせて上げなければいけません。

絶対音感を持っていると、こうしたフレキシブルなピッチの取り方が苦手な傾向にあります。

サンマルコ寺院の音楽監督の先生によると、日本人にはピアノのように一人だけ”正しい”ピッチを貫き続ける人が多いそうです。

でもこれも、練習を積めば変えていくことができます。
自分の頭の中にある音を歌うのではなく、周りの歌手と自分の声が作るハーモニーを聴くようにすれば、一緒に下がったり上がったりできるようになるのです。

平均律以外の音律で歌う難易度がアップする

古楽を演奏していると、平均律以外の音律が登場するときがあります。

絶対音感の人が記憶している音程は平均律のものですから、ミーントーンなどに調律してあると気持ち悪く感じます。

管理人は音律の授業で不協和音を確認したり、純粋な音程に調律する練習をしたりしたときに酔ったことがあります。

ただし平均律以外の音律で歌うことは、相対音感の人でも慣れが必要だと思います。
なぜなら、相対音感でも音程幅は平均律で覚えているはずですから。

結論:絶対・相対に関わらず”音感”と和声感を身につければOK

ここまで、絶対音感のメリットとデメリットを見てきましたが、演奏する音楽ジャンルによってはむしろ不利になることもあり、絶対音感、相対音感それぞれに長所があることが分かっていただけたと思います。

大切なのは、まず音感を育てること、さらに和声感がとても重要だと思います。

古楽で純正律の声楽アンサンブルに参加する場合など、ピアノで音を取ることはできません。
自分の耳が頼りです。
ほかの歌手の声と自分の声が作る音程が協和音程になっているかどうか、判断しなければなりません。

といっても、ピアノで育った多くの人にとって、ピアノの鍵盤が作る音程がオクターブ以外すべてわずかに不協和音だなんて、初めて知ったときは未知の世界への扉がひらいた気分だったと思います。

大切なのは向上心とか、トレーニングとか色々ありますが・・・

大切なのは「慣れ」
脳は何歳になっても発達するそうだから、新しいことを学んで変化させていこう!
楽しみながら学んでいくのみ!

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