今年もやって来ましたヴェネツィア名物アックア・アルタ!
・・・って全然嬉しくない。。。
今年2019年11月12日は記録的な水位の高さだったそうです。
ここ半世紀でもっとも高かったというから驚きです。
水没しているサン・マルコ広場の映像や、膝下まで上がった水の中を移動する観光客の姿などが、テレビやネットニュースで配信されています。
ヴェネツィアへの旅行を検討している方は「あんなん当たったらイヤだな~」と思っていますよね。
管理人も留学候補リストにヴェネツィアの音楽院が入った5年前、「この島沈むんじゃなかった? 人住めるの?」と不安に思っていました。
そこでこの記事では、「いやいや住めるよ! ヴェネツィア島民はアックア・アルタと共存してるよ!」ということをお伝えするために、
- できれば避けたいアックア・アルタ、やってくるタイミングを把握しよう
- それでもアックア・アルタの期間に出歩かなければならないときの対策
という2点について書いていこうと思います。
アクア・アルタ(Acqua alta アックア・アルタ)とは?
イタリア語で「Acqua alta(アックア・アルタ)」と呼ばれるこの現象は、
- Acqua=水
- alta=高い
という名前が表す通り、高潮による水位上昇を意味しています。
日本では「アクア・アルタ」と呼ばれていると思うので、これからこの記事でもこちらの表記で書いていきます。
アクア・アルタの原因
アフリカ大陸の方角から、シロッコと呼ばれる湿ったあたたかい風が吹くことで、アドリア海の水位が高くなります。
これが満潮時期と重なることで、極端な水位上昇をもたらすのがアクア・アルタです。
温暖化による海面上昇も原因の1つと言われますが、ヴェネツィアのアクア・アルタは中世の昔からたびたび起こっていました。
しかし近代になり産業が発達し、産業用水として地下水を汲み上げたため地盤沈下が起こったことで、現代では被害が大きくなっています。
なお現在では地下水の汲み上げはおこなっていません。
ヴェネツィアの市民生活への影響は・・・
路地が水の下に消えてしまった日でも、ヴェネツィアの市民活動が止まることはありません。
水上バスは一部運休になる
水位があがるため、ヴァポレット(水上バス)が橋の下をくぐれなくなります。
そのため、カナル・グランデ(大運河)を走るヴァポレットは一部運休になったり、一定区間を折り返し運転したりします。
ヴァポレットの運営会社ACTVのWebサイトをチェックして情報を確認しましょう。
このようにヴァポレットの運休情報が表示されます。
英語ページを出そうとしてもイタリア語ページしか出なかった・・・観光客のみなさんはページ翻訳機能で読んでねということでしょうか。。。
ヴェネツィア島内の学校は休みになる
潮位が一定以上高くなると、ヴェネツィア市が公立学校の閉鎖を決めます。
カ・フォスカリ大学や音楽院なども国立ですので、当然クローズとなります。
ですので留学生の皆さんはニュースによく注意をして、アクア・アルタのなか登校したら休講だったということのないようにしましょう!
ちなみにテレビがなくても大丈夫(管理人も持っていません)、Facebookの学校のページにもお知らせが掲示されます。

音楽院のフェースブックページの写真
ホテルやレストラン、バールは通常営業
しかし働いている人は休むわけにはいきません。
特にヴェネツィアは観光業に従事する人が多いので、アクア・アルタのときでも観光客はホテルに泊まるしレストランで食事もします。
従業員がモップで水をかき出したり、ポンプで排水したりしながら営業が続けられます。
ですのでアクア・アルタのときでも街は動いています。
下の写真はアクア・アルタのときのケーキ屋さん。
店の入り口にパネルを立てて浸水を防いでいます。
このときの店内の様子。
いつも混んでいる店ですが、アクア・アルタ発生中のこのときも相変わらず、にぎわっていました。
店内の床上浸水はあまりひどくありません。
主要な道には通路が作られる
水没した道を歩けるように、ヴェネツィア市の潮位センターの作業員の方たちが、高さ50センチほどの通路(パッセレッレ)を置いてくれます。
人通りの多い道では、時々この台の上が人間で渋滞しています。
ヴェネツィア市のWebサイトにあった、アクア・アルタのときにも歩ける通路の地図です。
ヴェネツィアが水没する!?
水没するのは一部地域
テレビやインターネットでよく見かける水浸しになったサン・マルコ広場の写真――安心してください、ヴェネツィア全土がああなるわけではありません。
サン・マルコ広場は特に海抜の低い場所なので、もっとも水没しやすいのです。
しかし2019年は本島の8割が水没
年によってアクア・アルタ被害は異なります。
管理人はヴェネツィアに来て3度目の冬となった2018年に初めて、アクア・アルタを経験しました。
2016年、2017年は被害が小さかったので、サン・マルコ広場に用事でもない限り、アクア・アルタに気付かずに生活できたのですが、2018年は被害が大きく、島の4分の3が床上浸水になりました。
そして今年2019年は島の8割に被害が・・・ただし夜の時間帯だったため、自宅におり、いつも通り過ごしていました。
モーゼ計画
将来的に世界遺産の観光地が水没しないように、行政も手を打っています。
海水の中に巨大パネルを沈めて、潮位が高くなるとそのパネルが上がり、壁となる計画です。
海に現れた巨大な壁が、ヴェネツィア地域への海水の流入を防ぐ仕組みです。
この計画は2003年に始まりましたが、一向に完成しません。
当初の予算では全然稼働にいたらなかったり、関係者が大勢汚職で逮捕されたり、”さすがイタリア”な事情が重なって暗礁に乗り上げています。
ヴェネツィアのアクア・アルタの時期はいつ?
短期留学や旅行の方は、なるべくアクア・アルタの時期を避けてヴェネツィアを訪れることができますね。
住んでいるとどうしようもないけど・・・
アクア・アルタは寒い季節にやってくる
アクア・アルタは主に10月から翌年2月まで、秋から冬にかけて襲ってきます。
自然災害なので例外もありますが、もっともひどい時期は10月下旬から12月にかけて多い印象です。
大潮の日に被害が大きくなる
大潮とは、満潮と干潮の水位の差がもっとも大きくなることです。
太陽と月の引力に関係しているので、一ヶ月に2回、満月と新月の日に大潮となります。
アクア・アルタの日は、1日2回の満潮時に気を付けて
またアクア・アルタが来た日でも一日中水浸しになっているわけではありません。
水位は潮の満ち引きに大きく影響されるので、1日2回の満潮のタイミングでもっとも高くなります。
この湿った風の影響で、アクア・アルタの日は天気が崩れることも多いです。
降ったりやんだりの雨もあれば、暴風雨が襲ってくることも・・・
ですので、アクア・アルタの発生する時期は曇天なので、あまり観光には向きません。
ヴェネツィアのアクア・アルタ対策
どうしてもアクア・アルタの時期にヴェネツィアに滞在しなければならない場合は、しっかりと対策を講じましょう。
アクア・アルタの時間帯と、地域ごとの水位が分かるアプリ
前述したように、アクア・アルタの影響は1日の中で大きく変化します。
朝は10センチ以上の水位だった道も、昼には水が引いています。
ですので、水が高くなる時間帯にはなるべく出歩かないのがベストです。
また場所によっても、道が水没するか否かは変わってくるので、海抜の高い土地を知れると便利です。
というわけで、何時にどこが、どれぐらいの潮位になるのか教えてくれるアプリを利用するのがおすすめです。
スマホアプリ「hi!tide Venice(ハイ・タイド・ヴェニス)」
管理人が使っているのは「hi!tide Venice(ハイ・タイド・ヴェニス)」。
音楽院の教授に教えてもらいました。
ピアノ教室の保護者さんもこれ使ってましたし、ヴェネツィアーニ御用達かもしれん・・・。

「hi!tide Venice」の使い方
これがメイン画面です。
今日から3日分の干潮時、満潮時の潮位が表示されています。
Current tideが現在の潮位です。
ちなみに、標準潮位から何センチという表示方法です。
予報欄の右にある、小さなグラフのアイコンをクリックすると、1日の中の潮位の変化をグラフで表示してくれます。
「PLACES」のページでは、右下のプラスボタン(+)から地名を登録できます。
どこがどれぐらい浸水しているのか、現在の状況を知ることができます。
例えば一番上のAccademia(アッカデミア)は音楽院のある辺りです。
地名のすぐ下のAltitudeは海抜を表しています。
右の数字はマイナスなので、地面より水位が下だということが分かります。
緑の文字で「Regular」と表示されるので、直感的に大丈夫なことが分かりますね。
アクア・アルタが来る前にはサイレンが鳴る
サイレンは段々高くなる4つの音で構成されていて、何番目まで鳴るかで潮位の高さを表しています。
この4つの音は短3度よりわずかにせまい音程で鳴り、とても不気味です。
ディミニッシュコード(減七の和音)の構成音のような4音で、不安をあおってきます!
このサイレンが鳴ったら、水が上がってくるな、と予測して動きましょう。
長靴を用意しておこう
備えあれば患いなし! アクア・アルタが来る前に長靴を買っておきましょう。
水が上がってきてからでは、家から店までの道もふさがってしまうかも知れませんからね・・・。
観光客用の使い捨ての靴カバー
上の写真の二人がはいている、水色のビニールが8ユーロぐらいで売っている靴カバーです。
使い捨てで、何度も使用していると穴があくそうです。
土産物屋でも、タバッキでも、雑誌スタンドでも、アクア・アルタが発生すると店頭に吊っています。
いつもは並んでないのに、アクア・アルタになるとどこでも買える感じです。
住むなら長靴を買わねばならん
こんなん買ってもヴェネツィア以外の土地では履けないでしょ!というような、長靴を買うのが、住人にとってはベストです。
いまどきの若者が、普通にこれを履いて音楽院に登校しています。
履き替えることもなく、そのまま授業を受けています。
ヴェネツィアでは当たり前の光景です。
留学生の場合、帰国する留学生からゆずり受けることも多いようです。
そのため、一人で複数持っている子もいます。
管理人もいただけるお話があったのですが、どれも足が大きすぎて入らなかったので買いました。。。
シーズンオフの5月下旬に買ったので10.4ユーロでしたが、普通はもう少し高いです。
日本で折りたためる長靴を買って持っていく
使い捨てのやぶれやすい靴カバーは心配だし、かさばる長靴を買っても日本に持って帰れないし・・・という方は、「日本野鳥の会」から折り畳み式の長靴が出ているそうです!(Twitterでteresettaさん(@teresetta)から教えてもらいました。ありがとうございます!)
色んな色が揃っていてかわいいですね。
これなら日本の台風のときでも履けそう。
ビーチサンダルや素足で水の中を歩いたらだめなの?
どうせ濡れるならビーチサンダルや素足で水の中をざぶざぶ歩いてしまおうと考える方もいらっしゃるかもしれません。
実際ヴェネツィアでそれを実行している人を時々見かけますし、管理人自身も経験者です。
でもアクア・アルタで道にあふれている水は、ただの海水ではありません。
下水道があふれてしまうため、汚水と混ざった海水で衛生上よろしくありません。
ヴェネツィアでは、アクア・アルタの中を素足で歩くと、汚い水のせいで風邪をひくと言われています。
バイ菌だらけの水の中を歩いたからと言って、破傷風にこそなれはすれ、上気道炎である風邪にはかからないでしょう。
しかし2018年に、私は素足で水の中を歩いた翌日から、実際に高熱で寝込みました・・・。
晩秋の寒い時期に、冷たい水の中を歩いたせいで体が冷えて、免疫力が低下したことが原因でしょう。
というわけで、水の中を歩くことはおすすめしません!
私は熱出して懲りたので、ようやく長靴を買ったわけです・・・
おわりにー日本人から見たヴェネツィアのアクア・アルタ
去年2018年と今年2019年は記録的な高潮となり、日本のテレビでも放送されているようです。
日本で暮らす両親にも心配されています。
でも実際暮らしていると、住人は意外と冷静で、日常の一コマとして受け入れています。
日本でも台風や大雪などの記録的悪天候でも、交通機関を乗り継いでなんとか出勤したりしていますよね。
こちらでも同様に、自然災害とうまく折り合いをつけながら生活しています。
でも、静かに上がって静かに引いていくアクア・アルタは、屋根を吹き飛ばしたり電柱を倒したりする日本の台風よりおとなしく感じます。
また、満潮の時間帯は正確に予想できるため、潮位予報は台風の進路と違って当たりやすいのも助かります。
日本は山も海もあって自然が豊かな分、自然災害にも襲われやすい国ですから、日本から来た皆さんならヴェネツィアのアクア・アルタは受け入れられると思います。
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