バロック音楽ってバッハとかヘンデル? どんな特徴があるのかにゃ?
- バロック音楽の定義について簡単に説明します
- バロック音楽の特徴について
- バロック音楽の有名な作曲家やレパートリー
以上3点について書いています。
筆者は2016年からイタリアの国立音楽院に留学し、古楽科で学んでいます。
中世・ルネサンス・バロック時代の西洋音楽を指します。
「古楽」に含まれる時代は長いのですが、筆者が音楽院で主に学んでいるのはバロック時代の音楽です。
バロック音楽とは?
まずはバロック音楽の時代と、中心になった地域についてです。
バロック音楽の時代区分
バロック音楽とは、1600年頃~1750年頃までの音楽をさします。
なんで1600年とか1750年で区切れるのかにゃ? この年になんかあった?
まあ、音楽は連綿と続きながら変化するので、あくまで「頃」なんですが、ひとつ重要な要素としては通奏低音があります。通奏低音とはジャズやロックのコード理論のようなもの。和声のシステムであり、インプロビゼーションを助ける音楽理論です。
詳しくは「通奏低音の解説(基礎編)」に書いています。
この通奏低音が使われていた時代が、おおむね1600年頃~1750年頃。バロック音楽は通奏低音の時代とも言えるんですね。
通奏低音については、音楽院の古楽科でもしっかり勉強します。ヴェネツィア音楽院の場合、チェンバロ科やオルガン科に入らなくても、声楽でもバロック・ヴァイオリンでも古楽科の学生は必修。
詳しくは「通奏低音の数字の読み方、イタリア音楽院の授業でどう学んでいる?」。
一方チェンバロ科では通奏低音の理論だけでなく歌やソロ楽器の伴奏テクニックについて、より実践的に学びます。実際にカッチーニの「アマリッリ」を使って、数字付き低音譜のリアリゼーションをしました。
バロック時代の終わりとみなされる1750年はバッハの亡くなった年。名作曲家の死をもってバロック時代は終わりを告げたという考え方は分かりやすいけれど……でもちょっと待って。バッハって存命中は音楽シーンの中心にいた作曲家とは言いがたいのです。
バロック音楽の中心地
バロック音楽の中心地はなんといってもイタリア。声楽曲の中心地でありオペラが生まれた土地です。
バロックオペラの歴史については、こちらの記事にまとめています。
イタリアのバロック音楽が伝播して、独自の発展をとげたドイツは器楽曲がさかんです。
一方フランスのバロック音楽はイタリアやドイツのバロック音楽とは雰囲気が異なります。ヴェルサイユ宮殿の装飾を思わせる、とっても貴族的な音楽。
バロック音楽の特徴
バロック時代の前はルネサンス。対位法を駆使した多声音楽が特徴でした。バロック時代になっても対位法は依然、重要。でも多くの要素が変化しました。
ルネサンス音楽から見たバロック音楽の特徴
- 独唱(ソロで歌うこと)の重要性が増した
→レチタール・カンタンド様式・オペラの誕生 - 器楽曲の充実
- 通奏低音の時代
- 教会旋法から調性音楽への変遷
次に、バロック時代につづく古典派の音楽と比べてみましょう。ハイドンやモーツァルトが活躍した古典派音楽でもオペラの人気は続いているし、器楽曲のジャンルはさらに充実していきましたよね。
古典派音楽から見たバロック音楽の特徴
- 対位法と通奏低音の時代
(古典派は和声法) - オーケストラの規模が小さい
(古典派→ロマン派と時代を経るにつれてオケの人数は増え、楽器の音量も増大します) - 即興の重要性
- オペラにおけるカストラート歌手の活躍
音楽史の教科書では前の時代(ルネサンス)との比較ばかり書いてあるので、筆者独自の視点で次の時代の音楽(古典派)と比較してみました。
普通、音楽史の教科書に書かれているのは、オペラの誕生、器楽曲の充実、対位法と通奏低音による作曲……あたりだと思います。
バロックオペラについて
バロック時代にオペラってあったんだね!
これ マジで複数回、言われてるんです……バロック音楽にオペラは欠かせない要素なのにぃ。。。バッハがオペラを書かなかったせいだ!――というだけでなく、あまり日本の劇場でバロックオペラがかからないのも理由のひとつでしょう。
ヘンデルのバロックオペラ《セルセ》はDVDにもなっています。感想記事を書きました。
《セルセ》は、日本のテレビコマーシャルにも使われた有名な「オンブラ・マイ・フ」が歌われるオペラでもあります。《セルセ》のあらすじと解説はこちら。
次は、このような特色をもつバロック音楽を、どのように演奏するのか見ていきましょう。
バロック音楽の演奏法
ほかの時代にはないバロック音楽の特色を生かした演奏をするために、古楽科の学生は日夜学んでいる……はずです!
チェンバロで弾くバロック音楽
器楽に関しては、バロック時代の楽器の特色を生かして演奏することが大切。例えばバッハの同じ曲を弾くとしても、ピアノとチェンバロでは演奏法を変える必要があります。
ただし「バロック音楽だからこのように演奏する」といった決まりがあるわけではありません。時代や国によって柔軟に変化させる必要があります。たとえばフランスの音楽とドイツの音楽ではトリルなど装飾のスタイルが異なります。
楽器も時代によって変化します。バロック時代後期には、現代のピアノにつながるハンマーで打鍵する方式の鍵盤楽器も生まれています。下の記事「1746年に製作されたチェンバロ・ピアノ」で紹介している楽器は、2段鍵盤の片方はチェンバロ、もう一方はピアノです!
演奏法はつねに柔軟なものなので、解釈は演奏家によっても異なります。それがチェンバロの先生によって少しずつ指導の違いにもつながっている……
とはいえ、やはりピアノとは大きく異なる奏法が求められるのがチェンバロ。ピアノを弾き慣れた身には難しいけれど、楽しい部分でもあります。
ピアノとチェンバロのタッチはかなり異なります。本気でチェンバロに取り組むなら、ピアノには触れられない話も書いています……
バロック声楽
楽器と違って、人の声帯は時代によって改良が加えられたりはしません……が、音楽様式の変化によって、歌唱スタイルも変えていく必要があります。とはいえ、バロック音楽とロマン派の音楽では発声法が違うのか?というような疑問は、勉強している本人にとっても疑問の多い分野です。
劇場で歌っている先生に習った感想を書いた記事がこちらです。
「バロック歌唱とはなんぞや?」という疑問については、東大の論文にもなっています。それぞれの分野の歌手に聞き取り調査をした論文で、とても興味深い内容です。
イタリアの国立音楽院では、声楽科のほかに、古楽の声楽をもうけている学校がいくつもあります。もちろん古楽の声楽は専門の先生が指導されます。
このことから考えても、レパートリー以外にも違いがあるのは確かでしょう。
ふつうの声楽科と古楽の声楽ではカリキュラムも異なります。ヴェネツィア音楽院の場合は、古楽の声楽ではオペラ実習が少ないなど、教会音楽や室内楽に重きを置いたカリキュラムになっていると感じます。
バロック音楽の作曲家・レパートリー
バロック時代にはさまざまな作曲家が活躍しました。
音楽室に肖像画があったの覚えてるにゃ! バッハ、ヘンデル…ヴィヴァルディだったかにゃ?
バロック時代の作曲家として有名なバッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディは1600年代後半の生まれ。3人ともバロック後期に活躍した作曲家です。
彼らより100歳ぐらい上の世代にも、素晴らしい作曲家がたくさんいます。
声楽曲の作曲家・レパートリー
筆者の専門はイタリアのバロック声楽なので、声楽曲のレパートリーから解説します。
初期バロック・・・1500年代末~1600年代前半
バロック音楽初期のイタリアには、モノディ形式で作曲したカッチーニや、ヴェネツィア・オペラで成功したモンテヴェルディがいました。
ヴェネツィアの音楽院では、学士レベルに入学すると最初の1年間に初期バロックのレパートリーを学ぶカリキュラムが組まれています。
中期バロック(1600年代後半)
1600年代後半のバロック音楽は、教会旋法の残っていた初期バロックと、私たちが聴き慣れているヘンデルのような分かりやすい和声構造の音楽をつなぐ様式です。
充実した器楽曲の作曲が盛んになりました。
声楽曲も、オペラだけでなく魅力的なカンタータにあふれています。
通常1~2人の歌手と、通奏低音もしくは室内楽の器楽アンサンブルによって演奏される、15~20分程度のレチタティーヴォとアリア。劇場ではなく貴族の屋敷の一室で演じられるので演技はともなわないが、詩の中にはキャラクターがいて物語があるので、オペラのワンシーンのようである。
ヴェネツィア音楽院のカリキュラムでは、おもに2年次に学びました。
後期バロック(1700年代前半)
有名なバッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディはようやくここで登場します。
オペラがさかんなバロック時代にオペラを一作も書かなかったバッハ。
オペラとオラトリオの分野で活躍し、ドイツ出身ながらイギリスに帰化したヘンデルは国際的に活動したバロック時代らしい作曲家です。
ヴィヴァルディはイタリアの作曲家でヴェネツィア出身。カトリック教会の司祭ですが、オペラなど世俗曲の傑作もたくさんありますね。
バッハもヴィヴァルディの作品から学んだそうです。
ヴェネツィアの音楽院では3年次に後期バロックを学びました。
チェンバロの作曲家・レパートリー
バロック時代、鍵盤曲の作曲家として有名なのが、ドメニコ・スカルラッティ。
バッハやヘンデルと同い年です。
スカルラッティはスペイン王妃マリア・バルバラの音楽教師でした。王妃が優秀だったからスカルラッティの曲は難しいそうです!
ヴェネツィア音楽院のチェンバロ科CPTコースの終了試験では、チェンバロのレパートリーを網羅的に弾かなければなりません。
- J.S.バッハ
- ドメニコ・スカルラッティ
- ルネサンス後期~初期バロックの作品
- イタリア・バロック
- フランスのバロック時代の作曲家
- ドイツ・バロック
実際の曲目リストと曲解説は「チェンバロで弾くバロック音楽 ~期末試験の曲目紹介~」をご覧ください!
バロック時代の様々な器楽
声楽とチェンバロについて説明してきましたが、バロック時代はさまざまな器楽曲が作曲されました。弦楽器に限っても今日聴き慣れているヴァイオリンやチェロだけではなく、テオルボ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュートなど美しい音色の楽器がたくさんあります。
またフルートも木管で魅力的な音色ですし、フルート以上にリコーダーが活躍しました。
とはいえ筆者が経験したチェンバロ以外の楽器といえばオルガンぐらい…。しかもちょこっと。
「チェンバロ科1年次の試験内容」に、ルカ・マレンツィオのインタヴォラトゥーラをオルガンで弾いて難しかった授業について書いています。
バロック音楽に関する新着記事
以下、「古楽の部屋」の新着記事です。下に行くほど古い記事になります。